105 JK生活開始である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。服装どうしよう……


 はからずも高校デビューを派手に決めてしまったから、キッチリした格好で行くべきかとも考えたけど、いまさら戻すのも変なのでこのままコソコソと登校。

 春の甲子園も制したジュマルと一緒に歩いているから注目の的だけど……ピッタリくっつきすぎなんだよ。


 教室に入るとクラスメートから避けられるかと思ったけど、初日のやらかしは笑い飛ばしてくれて、女子に囲まれることとなった。男子は遠巻きに見てるだけ。

 ジュマルを紹介してほしいのかと構えていたら、制服等のアドバイスをしてほしいんだとか。やっぱり女子だね。お洒落したいんだ。

 それならばと、部活連合のマネージャーから教えてもらったギリギリのラインを披露。私はそのラインより下にしているから注意は受けないだろうと思っていたら、何度か注意された。


 1年生は別枠なんだとか……不条理!!


 しかし、ファッションリーダーの私が引くと線引きが決まってしまう。懲りずに続けていたら皆もマネし始めたので、物量で乗り切ってやった。


 みんなの勝利だね!!


 ちょっと悪いことをしている気分にはなったけど、この戦いも学生の醍醐味。前世の学生時代は制服が1ミリでも乱れていただけで、怒鳴られたり殴られたりが当たり前だったのだから、平和な時代になったもんだ。

 こうして1年生女子は謎の達成感にひたり、妙な結束が生まれたのであった。男子は知らないよ?



 入学から2週間ほどで、女子は垢抜あかぬけて私も人気者になったから友達も増えた。でも、ジュマルの話題も増えたから、元々このことを聞きたかったんだね。

 ジュマルのことは無難に聞き流し、ハーレム作ってるから入る隙間はないとか適当なことを言っていたら、気になる視線がある。


 その視線の主は、犬養咲茉エマ。入学初日から金髪ミニスカで来ていたから、不良だと思って誰も触れないようにしている人物だ。

 エマは私が教室にいる間はずっと睨んで来るから、ちょっと気持ち悪い。あのやらかしが悪かったのかな? 華々しい高校デビューを奪ったとか? 黒いマスクにラインストーン付けるのかわいいな。


 そんなことを考えながら無視していたら、お昼休みにエマのほうから近付いて来た。


「あ、私、お花摘みに行って来るね~」

「え?」

「「「「「私もお花好きなんだ~」」」」」

「え? え? えぇ~? それ、隠語だよ~~~!!」


 すると友達は散り散りに。女の友情は儚い。1人目以外、マジでお花を摘みに行きやがった。そんな逃げ方ある!?

 エマの目的は間違いなく私。友達もあの視線には気付いていたけど、関わり合いたくないから黙っていたと思われる。そのエマは、私の机の前まで来て、ドサッとイスに腰を下ろした。


「えっと……なにかな~?」


 座ってからも品定めするように私はジロジロと見られたので、引きつった笑顔で対応している。けっして、開いたシャツの胸元にビビッているわけではない。デッカ……


「あんた……マッドJSだろ?」

「はい??」

「あの朱痰犯閃スタンハンセンの総長をムショ送りにしたマッドJSだよ」

「ちょちょちょ! ちょっと待った! 場所変えよう。ね?」

「いいけど……」


 忘れていた黒歴史を引きずり出されたからには、私もとんでもなく焦ってエマを教室から追い出す。しかし、後ろから大勢が「決闘じゃね?」とか言いながらついて来ていたので、野球部の部室に逃げ込んだ。


「へ~。この学校も牛耳ってんだ」


 部室にたむろしていた先輩方を追い出したから、エマは盛大な勘違いしているな。


「牛耳ってるってのはやめてくれない? お兄ちゃん関連で仲がいいだけなの」

「狂犬ね~……」

「え? お兄ちゃんって、そっちの筋の人から狂犬って呼ばれてるの??」

「どの筋かはわからないけど、ウチの兄貴はそう呼んでた」


 初耳! 猫が犬になってる!? お兄ちゃんは、狂った猫だよ~。


「えっと……犬養さんのお兄さんって、もしかして朱痰犯閃スタンハンセンにいたの?」

「ああ。マッドJSには近付くなって言われた。何人も殺してるって」

「殺してない! 殺してないからね? 総長もお兄ちゃんがやったの~」

「あんたが棒で殴りまくって、両足と右手を折ったって聞いたよ?」

「詳しすぎ!?」


 ここまで知られていては、噓をつき通せない。私も覚悟を決めて話し合う。


「何が目的なの?」

「ケンカもしそうにない子が、なんで恐れられているか知りたかっただけ。言い振らすつもりもないよ」

「それだけなんだ……」

「ああ。兄貴も最近では、狂犬がテレビに出る度に『こいつと会ったことあるんだぞ』とか嬉しそうにしてんだ」

「そのお兄さん、いまは何してるの?」

「トビ。結婚もして子供もいる。なんかジュマルって名前までつけてた」


 どうやらエマの兄は歳が離れており、朱痰犯閃スタンハンセン時代は家でもけっこう暴れていたらしい。しかしあの事件以降はおとなしくなったので、わりと感謝しているそうだ。


「へ~。それはよかったね。私も頑張った甲斐があったよ」

「なんであんたがジュマルの代わりに戦ったの? 総長は、俺が負けるの見とけって挑んだらしいんだけど」

「虎太郎のヤツ、そんなこと言ってたんだ……だからだよ」

「だからって??」

「お兄ちゃんが戦っていたら、いまでも追い回していたと思うの。だから弱い私に負ける必要があったの。プライドズタボロでしょ?」

「そりゃね……勝てるあんたも充分おかしいけどね。プッ……」

「あの時は若かった~。アハハハ」


 エマが笑顔になったので、私も笑って緊張を解く。それからあの当時の話で盛り上がり、打ち解ける私たちであった。



「ララ! 大丈夫か!?」


 私たちが話し込んでいたら、部室のドアが縦に倒れてジュマルが飛び込んで来た。


「お兄ちゃん! ドア壊したらダメでしょ!!」

「え? ララが大変って聞いたから……」

「ちょっと思い出話してただけよ。まぁ助けに来てくれたのだけは、ありがとう」


 たぶんうちのクラスメートからジュマルの耳に入ったと思うけど、せめて普通に開けろよ。


「これが私のお兄ちゃんね。あ、変な呼び方しないでね??」

「ああ……そんなにデカくないんだな」

「そそ。んで、こっちがクラスメートの犬養さん。お兄ちゃん、握手~」

「なんかようわからんけど、ララのことよろしくな」

「こちらこそ……」

「じゃあ、お兄ちゃんはハウス。ドアのことは私がなんとかしておくわ」

「おう! またあとでな~」


 突然やって来て、握手だけして何ごともなく去って行くジュマルを見たエマは……


「いやいやいやいや、ドア壊すって無茶苦茶でしょ!?」

「お兄ちゃん、ああいう人なの。たはは」

「それを手懐てなずけてるあんたもあんたよ!!」


 エマは出会ってから初めて声が大きくなり、常識的なことを言うのであったとさ。

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