092 パンデミックである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。OM1ウィルスのバカ~~~!!


 世界的なパンデミックのせいで、日本でもいつロックダウンされるかと心配してニュースを見ながら過ごしていたら、私の小学校の卒業式はギリセーフ。友達と「よかったね~」と涙ながらに喜んだ。

 ジュマルの大活躍は、バスケだけはギリギリセーフ。ジュニアオールスターを1人で優勝をもぎ取り、とんでもない逸材が現れたとニュースになったのだが、日本政府が発令した緊急事態宣言に押し潰されてしまった。


「明日、入学式だったのに……」


 それも、私の中学校の入学式直前だ。髪も伸ばしてお姉さん仕様になったのに、バカ政府~~~!!


「え? これって、私の中学校生活はどうなるの??」

「あ、ララちゃんもやっと自分の心配するようになったわね。しばらく休講だって」

「聞いてないよ~~~」

「ママ、何度も言ったよ? でも、ララちゃんはジュマ君のことでいっぱいいっぱいだったから」


 どうやら私がニュースとジュマルのスケジュールを眉間にしわ寄せながら見ていた時に母親は教えてくれたらしいけど、耳に入っていなかった。


 こうして私の中学校生活は、波乱の幕開けとなるのであった……



 緊急事態宣言の最中、家から一歩も出れない日々はさすがに私もつら……快適。お金持ちでよかった~。広い庭で運動もできるし、韓流ドラマ三昧だ。

 あと、平行世界の猫の家を覗き見て、ぬいぐるみみたいな赤ちゃんに癒される毎日。あの猫、いっつも子供と遊んでるな……いい加減、仕事しろよ。

 

 父親はリモートで仕事を始めたので、一日中家にいる。たまに覗きに行ったら、外国人と会議中だったりパソコンをずっとカタカタやってた。イケメンの仕事をする顔はカッコイイとは思うけど、下半身が寝巻きのままだから残念だ。

 ちなみにいまは、私が思い付きで言った学習ゲームの製作中。パンデミックが世界に広がる前から作り始めていたので、もうすぐ発売するらしい。


 広瀬家で外に出るのは母親ぐらい。弁護士だから人と会わないことには仕事にならないみたいだ。半分ぐらいはリモートになっているらしいけど、事務所でやっているからどこがリモートかよくわからない。

 パンデミックが始まった頃から準備していた対応マニュアルを中学校に売り込んだせいで、噂になって大人気だから休むに休めないんだって。


 みんな休んでるのに、両親はちょっとかわいそうだね。


 ジュマルは緊急事態宣言が出てから寝てばっかり。試合が全て無くなったから燃え尽き症候群になっているのかと思ったけど、いつも通り。試合じたいはどうでもいいらしい。

 ただし、宿題のプリントは山ほど出てるんだからやらせないと! そこまでやらないと煮干し抜きだからね!!



 ドラマ三昧も飽きて来た頃に、前もって買っていたマスクが尽きそうだとか母親が心配していたので、暇潰しに作ってみよう。

 小学校の家庭科セットと空き部屋でホコリを被っていたミシンを引っ張り出し、両親が「ララちゃんに似合いそう!」って買いすぎて一度も袖を通さなかった花柄の子供服をハサミでチョキチョキ。

 ネットで作り方を見ながらやってみたけど、なかなかおしゃれなマスクができたのでは? とりあえず違う色の服も切って大量生産してみよう。


 ガガガガガーっと私が時間を忘れてミシンで裁縫していたら、後ろから声を掛けられた。


「ララちゃん……それ、マスク?」

「あ、ママ。お仕事お疲れ様。ママのために作ってみたんだ。つけてつけて~」

「だば~~~」


 母親は、私お手製マスクをつけただけで号泣。喜んでもらえるのは嬉しいけど、マスクがグチョグチョだ。


「色とサイズ違いでいっぱい作ったから、欲しい人に配れないかな? マスク不足なんでしょ??」

「なんていい子なの!? だば~~~」

「ママ、マスクは涙を拭う物ではないよ?」


 用途を間違えている母親はしばらく使い物にならなそうだったので、父親にもマスクの差し入れに行ったらこちらも号泣。でも、リモート会議中なのに招き入れるなよ。

 モニターの向こう側で社員さんが笑うなか、自己紹介してマスクが欲しい人はいるかと聞いてみたら、オークションが始まった。美少女のお手製ってのがプレミア感があるらしい……


「アハハ。売り物じゃないですよ~?」

「10万円!!」

「パパが落札しちゃダメでしょ!!」


 社員さんのボケに付き合ってあげていたら、父親が桁の違うプライスを提示するので、激しくツッコむ私であったとさ。



 私のマスクは母親と父親が手配してくれて、高齢者施設や保育園に配られるとのこと。それならばと張り切って作っていたら、変なニュースが入った。


「アボノマスクっていう布マスクだって」

「ちっさ!?」

「ララノマスクのほうが、しっかりしてるよな~?」

「パパ、その言い方だけはやめて……」

「あ、うん。ごめんなさい」


 布マスクが全国民に配布されると聞いたけど酷評されていたので、父親の言い方に怒りを覚える私であった。



 全然届く気配のないアボノマスクのおかげかどうかわからないけど、マスクが市場に一気に流れ出したから価格も落ち着いたので、ララノマスクは撤退。

 余ったマスクは中学校の初登校に持って行って自己紹介代わりに配ったら、男子から大人気。目だけしか出てないのに、美少女だとバレたみたい。でも、それは女子用だと言ってるだろ。あ、かわいい物が好きなんですか……本当に?

 なんか気持ち悪い男子の花柄マスクは取り上げて、女子にも配り歩く。たまに睨んでいる人がいたので、わざとマスクをずらして笑顔を見せてみたら、おでこが真っ赤になっていた。惚れたかな?


 クラスメートに配ってもマスクは余っていたので、いつもお世話になっていたジュマルのクラスでも配って自己紹介してみたら、「小学生が中学校に潜り込んでたの!?」と驚かれた。そういえば、秘密にしてたな。

 まだマスクは余っていたので、バスケ部、サッカー部、野球部でも配って自己紹介したら、同じ反応。まだバレてなかったんだ。


「監督~。マスクいります~? ……どうかしました??」


 今日はこれからの方針を話し合うみたいだったので野球部の監督もいたからマスクを渡しに行ったら、めちゃくちゃ暗い顔をしていた。


「店も開けられないし、監督の仕事もできないんじゃ、俺はどうしたらいいんだ~~~!!」

「私に言わないでくれます? 中学生ですよ??」


 そう。監督の本職はコロッケ屋。パンデミックのあおりを受けて生活が不安定になっているから私に泣き付いているのだ。

 かわいそうだけど、私はそれ以上近付くなと怒鳴り、困ったことがあるなら母親に相談してあげるからと諭して逃げるのであったとさ。

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