093 動画デビューである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。パンデミック、ぜんぜん収まらないじゃないの!?
緊急事態宣言はなんとか終わったらしいけど、我が中学校はいまだに分散登校や部活動停止は続いている。これでは、夏にある野球の全国大会はどうなるの? 秋の高円宮杯は??
ニュースでは甲子園も危ないのではないかとの話が出ているけど、こんなに感染率が低いのに禁止にする理由が私にはわからない。なんなのこいつら……
いちおう中学校でも恐る恐る予選は始まったけど、やってるうちに甲子園の中止のニュースが入り、雪崩のように国体や全中も中止が決まった。
1学期も中学校生活の実感もないまま終わっていたので、私はグレそうだ。
「なんのために、お兄ちゃんと同じ中学校に入ったの~~~!!」
庭で大声で叫んだところで、OM1ウィルスは去ってくれない。私はジュマルをプロ選手に仕立て上げようと思っていたのに、計画は全てご破算だ。
それにこのパンデミックはいつ収束するかわからないのでは、どうしようもない。私はふて寝して、韓流ドラマを見て時間を潰していた。
たまには父親のゲームをやってみようとアプリを開いたけど、これがなんで世界的に大ヒットしてるかサッパリわからない。
手洗いの仕方で点を取るだけでしょ? 100点取ったところでなんになるの??
夏休みは宿題とリモート家庭教師以外やることもないし、韓流ドラマも見飽きたので動画サイトを見ていたら、閃いた!
私は両親に相談して全面協力で、あることを始めるのであった……
「は~い。『お兄ちゃんと一緒』始まったよ~。パチパチパチパチ~」
あることとは、動画配信。ジュマルと一緒にマスクをつけて、広い庭で撮影に挑んでいる。
「このお兄ちゃん。なんと、中学バスケで日本一になったんだよ? この表彰状が証拠ね。名前は黒塗りだけど、わかる人にはわかるよね? では、そんなお兄ちゃんに、私こと妹ちゃんがバスケを教えてもらいま~す。パチパチパチパチ~」
両親との約束で、顔と名前を出さないように言われているから、こんな動画になっているのだ。
「それじゃあ、お兄ちゃん。ドリブルしてみて」
「こうか?」
「う~ん……もうちょっと遅くできない? あと、股とか後ろとかでやられると、よくわからないの」
「これでどうや?」
「だから速すぎるんだって!!」
ジュマルのドリブルは異次元。動画を見直してみたけど、なんか残像が残っているので逆に遅く見える。マジでどうなってんの??
仕方がないので私は隣で普通のドリブルをしていたけど、私のほうが速くないか? 映像マジック!?
とりあえず両親にも見せて、これで動画サイトにアップしてみたけど、自分たち以外は見ていないのであったとさ。
これでは私の狙いから外れているので、幼馴染ミーズと友達に連絡して拡散をお願いしてみたら、1日でめっちゃ増えた。ジュマルが出てるもんね。しかし学校の域を出ていない。
でも、その増え方が嬉しかったので、私は調子に乗って次なる撮影をしてみる。
「は~い。『お兄ちゃんと一緒』始まったよ~。パチパチパチパチ~。このお兄ちゃん、得意な競技はバスケだけじゃないの。今日はサッカーのリフティングを教えてもらいま~す。パチパチパチパチ~」
ひとまずジュマルにリフティングをやらせてみたけど、やっぱり異次元。
「ずっと
「普通ちゃうか? しらんけど」
「ぜったい違うって! 前でやってよ~~~」
ジュマルが私のできそうなリフティングをしてくれないので、飛び掛かって邪魔してみたけど、全てリフティングしながら避けられて疲れて終了。
悔しいけどそのまま動画サイトにアップしてみたら、励ましの声がいっぱい届いた。あんなリフティング誰もできないってさ。
それでもこの動画の再生回数は倍に膨らんだので、この方向で続けてみよう! 次は野球だ。
「は~い。『お兄ちゃんと一緒』始まったよ~。パチパチパチパチ~。お兄ちゃんが凄いのは、バスケとサッカーだけじゃないよ~? 今日は野球を教えてもらいます!!」
ちょっとヤケクソ気味に、父親に買ってもらったストラックアウトのボードに向けてボールを投げるジュマルの姿を撮ってみたら、1番から一発で落としていたけど投球フォームが定まらない。
「さっきはアンダースローで投げてたよね?」
「アンダースローってなんや?」
「わからずやってたの!? 左で投げるな! 普通でいいのよ~~~」
てなことを数日置きに配信して、ある日の夜に私がリビングでタブレットを睨むように見ていたら、母親が覗き込んで来た。
「ララちゃん怖い顔してどうしたの? わっ! バズってるじゃない!? すっご~い」
『お兄ちゃんと一緒』は、登録者数が三十万人超え。各動画も百万回再生を軽く超えているから、普通は喜ぶべきなんだろう。
「でも、なんでそんな顔してるの?」
「コメント欄……」
「コメント欄? 『妹ちゃん頑張れ』ってコメントがいっぱいだね……あ~。ジュマ君のプロデュースでやり始めたのに、ララちゃんばっかりになってるからか」
そう。ジュマルが私の意図通りに動いてくれないから、私の激励コメントばっかりになってしまったのだ。私が欲しいのは、スカウトからのダイレクトメッセージなの!!
「全部、パパのせいだ……」
なので、全ての編集を任せている父親を親の仇かってぐらい睨んでやった。
「なんでパパのせいなのかな~?」
「このコミカルな編集の仕方よ! 何この気の抜けるような音!? 私が走ったら、こんなポヨポヨ鳴ってるの!? 聞いたことないわ!!」
「いや、それは視聴者を盛り上げるために……」
「なんで私ばっかり目立っているのよ~。お兄ちゃんのためって言ったでしょ~」
「なんかそっちのほうが面白くて……」
「まぁ、バズったんだから、これでよくない?」
「違うのよ~~~」
両親は、私がかわいかったらそれでよし。方向性の違いに、私は半泣きで叫ぶのであったとさ。
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