090 三者三様である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。馬鹿と天才は紙一重ってことわざはあるけど、ジュマルには当て嵌まらない。だって、ルールも知らないでやっちゃうバカなんだもん。


 ジュマルはサッカーとバスケのルールを知らずにやっていたのだから、私の出番。両キャプテンからルールを教えてもらい、ジュマルには私からレクチャー。

 サッカーのルールは単純だから、オフサイド以外はなんとか形になったと思う。とりあえずいまはこれでやってもらい、厄介なバスケだ。


「いい? イチニイで、ドリブル、パス、シュートのどれかをしなくちゃいけないの」

「こうか?」

「それはボールを持って走ってるだけ~~~!」


 ジュマルはトラベリング連発なんだもん。そのままダンクするし……いまさらだけど、ジュマルの身長って160センチもないのに、なんでリングに届くんだろ?

 そんな感じでここ数日はバスケ部の練習に集中していたら、体育館の入口から視線をヒシヒシと感じて私はバッと振り返った。


「俺のジュマル……」

「あ、監督……」

「「私のジュマル君……」」

「と、結菜ゆいなちゃんと愛莉あいりちゃん……大翔ひろと君までいるね……」


 その野球部の4人が恨めしそうに見ていたのだ。


「ごめん。すっかり忘れてた。えへへ~」


 というわけで、今日のところは野球部のグラウンドにジュマルを連れて行く私であったとさ。



 監督は一連のやり取りは顧問から聞いていたらしいので、練習メニューの確認だけはやっておく。ジュマルはエースで四番志望だから、ピッチングとバッティングだけをやり、全体練習は練習試合と大会が近くになってからとなった。

 野球部は1時間足らずの練習で、残った時間はサッカーとバスケを2日交代でやってみる。でも、ネックはバスケ。サッカー部には悪いけど、6日の内の4日はバスケばかりになってしまった。


 そのおかげでバスケの練習試合では、なんとかジュマルもトラベリングやダブルドリブルはやらなくなった。ただし、めちゃくちゃ走り回るので、試合もめちゃくちゃ。

 相手選手がボールを持ったら追いかけ回して奪い取り、パス回しをして振り切ろうとしも追いついてしまうので、相手選手が泣きそうになってた。

 向こうの監督はファールとか叫んでいたけど、ジュマルは相手選手には一切触れていないので笛は鳴らず。1人で100点取って、相手チームも10点ちょっとで抑えたのであった……


「ララちゃん……ママ、バスケのことよくわからないんだけど、アレで合ってたの?」

「う~~~ん……」

「勝ったから合ってるだろ! ジュマル、凄いぞ~~~!!」

「う~~~ん……」


 でも、練習試合を一緒に見に来た母親は喜ぶに喜べず。父親は大喜び。私はなんと言っていいかわからずに、バスケのデビュー戦は終わるのであった。



 それからしばらくしてサッカーの練習試合もあると聞いたので、家族で応援に行ったけど、バスケの二の舞い。さすがにここまでフィールドが広いとジュマルもしんどそうだ。


「う~ん……ちょっと顧問のところへ行って来るわ」


 前半は5対5というサッカーとは思えない点数で折り返したが、このままでは負けてしまいそうなので私は助言しに控え室に勝手に入った。


「えっと……こういう作戦はどうかな? お兄ちゃんは絶対に……」


 ハーフタイムが終わると私は観客席に戻って見ていたら、なかなかサッカーらしくなったのでは?


「あ~。なるほど。ジュマルのワントップにしたんだ。そして、ハーフラインから出るなって言ったんだろ?」

「パパ、せいか~い」


 父親の言う通り、全体を走り回っていたジュマルを相手陣地だけに押し込んでみたら、ズバリ嵌まった。相手が攻めあぐねて後ろに戻ったボールをジュマルが追い回すと、それをカットしてそのままゴールに押し込むことができるのだ。

 もちろんジュマルがいないことで防御力は低下しているので、得点を取られるケースは多い。だが、奪ったボールを高々と前線に送りさえすればジュマルが点を取ってくれるから、差が開いて来た。


「ララちゃん。サッカーって、こんなに点が入るモノだっけ??」

「う~ん……野球の試合みたいだね」

「ジュマル~! 凄いぞ~! ハットトリック5回だ~! あはははは」


 15対9という大量得点でデビュー戦は勝利を収めたのだが、父親ほど楽観的に喜べない私と母親であったとさ。



 バスケとサッカーの練習試合は勝利はしたが、課題が山積みとなったのでまたジュマルの指導をしていたら、今度は野球部の練習試合が組まれたので、またまた両親と一緒に応援に来た。


「野球は安心して見てられるね。普通だ」

「そうだね。走り回らないもん」

「監督! どうしてジュマルを使わないんだ! 解任するぞ!!」

「パパ! 脅さない!!」


 ジュマルがホームランを連発する以外は普通の試合だったので、私と母親はゆっくり見ているのに父親はうるさい。なのでチョップして黙らせてやった。

 もちろん試合は7対3で勝利。前半は違うピッチャーが先発していたので失点はあったけど、ジュマルが投げた3回はノーヒットノーランで抑えたのであった。



「あそこの中学には、化け物がいるらしいぞ」

「俺も聞いた。バスケにサッカーに野球……1人で勝つって、どんな化け物だよ」


 ただし、練習試合とはいえ他校には、ジュマルの活躍は化け物と恐れられていたのであった……

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