088 私の迷いである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ダンクぐらい私も知ってるよ!
ジュマルのバスケ部入部を阻止しようとやって来たけど、白木キャプテンがどれだけ天才かを熱弁するので私もたじたじ。代理人のクセにルールも知らないのかと言われたからムカムカ。
「ですから、年俸も条件も提示してませんよね? まずはそれを書面にして送ってください」
「中学の部活なんです!!」
なので代理人らしく伊達メガネをクイッと上げて反論してみたけど、聞きゃしない。まぁ、そうだよね……
「そう言われましても、ジュマルは野球部の部員です。大会に出場して活躍しないことには、甲子園、プロ野球と進んで行けないんですよ。その未来を、あなたに止める権利があると思っているのですか?」
「そ、それは……」
進路を出してやったら白木キャプテンも怯んだので、私は勝ったと思った。
「び、Bリーグ! バスケだってプロはあります!」
「それはプロ野球選手より稼げると思っているのですか?」
「日本は安いと思うけど、アメリカだったら50億貰う人だっています!!」
「え? ……マジッすか??」
「確か、カリーって選手が……」
50億円と聞いて、私も心が揺らいじゃった。スポーツ関連は私も疎いので、稼げるスポーツは野球しかないと思っていたんだもん。
なのでキャプテンと一緒にバスケの進路をスマホで調べてみたら、事実。
「ちょっと待って。プロ野球って、いい人で1億ぐらいの年棒じゃないの?」
「いや、高くて5億ぐらい??」
「プロ野球の10倍!?」
「どうですか? 野球よりバスケやらせませんか~??」
私がジュマルにスポーツ選手をやらせたい理由は、完全にお金。両親の遺産でも余裕で暮らせていけると思うけど、そんな大人になってほしくないから、せめて自分で働いた実感を持てるように稼げるスポーツをやらせたいのだ。
そこにこんな大金が舞い込むスポーツがあると知って、私の目は聖徳太子……古すぎた。渋沢栄一……は、行きすぎか。まだ福沢諭吉さんだったかな? キャッシュレスだから、今世で一万円札見たことなかった!?
私がどうでもいいことを考えて黙っているものだから、白木キャプテンも勝ったとほくそ笑んだ。
「ちょっと待った~~~!!」
しかし、そこにサッカーボールを持った男が乱入した。
「ジュマルはサッカー部に入ったのに、なに横取りしてんねん! 代理人の姉ちゃん! サッカーだってめっちゃくちゃ稼げるんやで~?」
「あんたは誰で、いったいいつから聞いてた?」
このボーズ頭の乱入者は、サッカー部のキャプテン田中。どうやらジュマルを取られたと殴り込みに来たけど、私にドッキンドッキンしてて話に入るのが遅れまくったらしい。
「んで、サッカー部のアピールポイントはなんですか?」
「やっぱし、競技人口の多さや。海外にはチームも多くて、トップクラスなら年俸も大リーグ並み。それに加え、スポンサー契約も入って来るんやで~?」
「スポンサー!? 確かに世界中が見るとなったら、CMとかも世界中から引く手
「せやろ? サッカーやらせようや?」
「バスケだってスポンサーつきますよ! どうかバスケ部にください!」
「「お願いします!!」」
両キャプテンが右手を差し出してお辞儀するので、なんだか2人から告白を受けているような感じになってしまったので私もあたふたしていたら、ジュマルが飛び込んで来た。
「なんやお前ら。ララに手ぇ出そうとしとんのか?」
「お兄ちゃん。そういう話じゃないから。怒らなくていいよ?」
両キャプテンはジュマルにビビっていたから助けてあげて、本人の意見も聞いてみる。
「部活ってのは、どれかひとつをやるのが普通だと思うんだけどね。お兄ちゃんは、どれを一番やりたいの?」
「俺は……なんでもええで」
「なんでもええじゃなくて、一番を聞いてるのよ。大会を目指すとなったら……ちょっとキャプテン集合」
ジュマルじゃ決めきれないので、両キャプテンを呼んで質問してみる。
「部活って、掛け持ちとかできるの?」
「「さあ……」」
「知らないか~……じゃあ、大会とかって重なってるの??」
「サッカーは一番大きいのは秋やな」
「バスケは春が一番大きいよ」
「上手くやったら、掛け持ちは可能ってことね……ちょっと保留。今日のところはジュマルを貸してあげるから、ケンカしないで練習しなさい」
こいつらから聞ける情報はあまりなさそうなので、私はこの場を離れるのであった……岳君はしらんがな。バスケ部入るんじゃない?
その足で野球部の監督の元へ行った私は、いちおう頭を下げる。
「お兄ちゃんがご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「あ~……サッカーのことか?」
「今日はバスケしてましたけど……知ってはいたんですね」
「バスケは知らないけど、ジュマルは目立つからな。マネージャーから聞いた」
「怒らないのですか?」
「元々冬は、野球はオフシーズンだから、体力作りに違う競技をやらすこともあるんだ。それに最近ジュマルもやる気がなかったからな~。気晴らしにそれもいいかと思っていたんだ」
ジュマルのモチベーションの話は初めて聞いたので、もうちょっと詳しく聞いてみたら、3年生が引退した頃かららしい。
それまではピッチングマシーンとしてけっこう忙しくしていたから、最近の練習量だとジュマルには足りないのだと監督は思っているそうだ。
「なるほどです……でも、練習量を増やせばいいだけでは?」
「それもアリだが、ピッチャーの肩ってのは消耗品なんだ。使いすぎて壊れたなんてよく聞く話だから、いまのできあがっていない体でやらすのは俺も怖くてな。あと、他とレベルが違いすぎて、サジ加減がサッパリわからんってのもある」
「監督がわからないんじゃ仕方ないですね」
私もジュマルの限界がどこかわからないので、経験者に任せるしかないんだよね~。
「ちなみになんですが、お兄ちゃんはサッカーもバスケもやる気満々なんです。もしかしてですけど、野球を辞めることになるかも……」
「はあ? 辞めるって……ジュマルが辞めたら俺はどうなるんだ??」
「スポンサーはうちの親なので……解任??」
「そりゃないだろ~~~。俺だってジュマルに夢見てんだよ~~~」
今日のゴタゴタを包み隠さず監督に伝えたら、こっちも涙ながらの引き留めがすんごいことになるのであったとさ。
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