085 不良である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。部活の監督を引き受けるのも大変だね。


 野球部は新体制になって、3年生以外は別練習。3年生は元監督が指揮をり、夏の大会を目指す。その他は新監督が指揮を執り、基礎練習がメインだ。

 新監督のほうが野球に詳しいし練習メニューは厳しいので、3年生が羨ましそうな助かったような複雑な顔をして見ていることが多い。たまに手が空いた新監督が相手をする時は嬉しそうだったから、野球大好きの集まりだったんだね。


 ジュマルは基本、正捕手を目指す大翔ひろと君と2年生キャッチャーと一緒に練習している。というか、ジュマルにはほとんど練習が必要ないみたいだから、3年生のピッチングマシンをよくしている。

 新監督に聞いてみたら、レベルが違いすぎて邪魔みたい。走ったらブッチギリだし、筋トレも逆立ちでやったりして皆を引かすんだとか。

 ノックの際には皆のボールまで奪い取るから、練習にもならないみたいだ。なんかすんません。


 まぁこれはこれでアリらしい。元よりキャッチャーの育成は必要だし、ジュマルの手加減や、3年生は速い球を打つ練習にもなるから役に立ってるとのこと。

 練習試合でも、3年生は目を見張るほどバッティングが良くなっていたらしいから、ひょっとしたら市内は優勝できるかもと大盛り上がりだ。負けてただろ?



 そんなこんなでしばらく放課後には中学校に行っていた私は、ジュマルはなんとかやっていけそうだったので行く回数を減らして小学校生活をダラダラ過ごしている。

 授業は中学校の教科書を読み、テストは満点を取り、体育でも大活躍。クラスメートや他所のクラスメートからチヤホヤされて、男子の告白には塩対応。


 わりと楽しくやっていたら、お昼にスマホのバイブが鳴っていたから職員室でグループトークを見てみたら、幼馴染ミーズからの救援信号。

 先生には事情を説明して早退させてもらい、制服に着替えたらタクシーで中学校に向かう私であった……



 中学校にはちょっと早く着きすぎたので、職員室で手の空いている先生と世間話。来すぎて仲良くなっちゃったの。いちおう今日来た目的を説明したら、目をつぶってくれるとのこと。やったね!

 放課後のチャイムが鳴る前にジュマルのクラスの前でスタンバイして、チャイムがなったらすぐに中へ入り、幼馴染ミーズに声を掛ける。


「連絡ありがと~」

「はやっ!?」

「ララちゃん。ちゃんと小学校行ってる?」

「行ってるよ。たまたま早く着いただけだよ~」


 結菜ゆいなちゃんと愛莉あいりちゃんが今ごろ私の心配をしていたけど、煙に巻いて本題だ。


「んで、3年の不良にお兄ちゃんは呼び出されてるのよね?」

「うん。すっごい大きな人」

「放課後に体育館裏に来いだって」

「ベッタベタな展開ね~。アハハハ」

「「ホントに。アハハハ」」


 女子で笑っていたら、大翔君とがく君は引き気味で話に入って来た。


「人数もけっこういたんですよ。怖くないんですか?」

「そうでっせ。アニキはけっこう恨み買ってるんでっせ」

「そんなのいつものことよ。んじゃ、話を付けて来るわ。お兄ちゃん、行くよ~」

「「「いやいやいやいや……」」」


 私がジュマルを連れて行こうとしたら、幼馴染ミーズに捕まった。


「なに?」

「「ララちゃんは行っちゃダメでしょ!」」

「ララさんが怪我したらどうするんですか!」


 どうやら小学生が、不良のたむろする体育館裏に行くのは心配らしい。そりゃ止めるわな。


「お兄ちゃんがいるから大丈夫。暴走族とお兄ちゃんがケンカするのもついて行ったことあるし。ね? 岳君??」

「アレは姉さんが……」

「私は指示してただけ……」

「はい! 姉さんの素晴らしい指示で暴走族も壊滅ですわ~」

「「「それ、本当!? 何してんの!?」」」


 岳君は私に怯えて話を合わせてくれたけど、小出しにした情報には幼馴染ミーズが驚愕の顔。詳しいことは岳君に言うなと脅してから、私とジュマルは体育館裏に向かうのであった。



「いい? できるだけ穏便に済ませるよ」

「おう。足、蹴ったらええんやな」

「私が許可してからね」


 ちょっとした作戦会議をしたら、私は棒を握って体育館の角を曲がった。


「で? どいつがこの学校の番長なの??」


 美少女の登場に不良たちは固まっていたので、私から声を掛けてあげたら、さっきまで座っていた大男が立ち上がった。


「なんだお前は? 俺はジュマルに用があるんだ。危ないから、さっさと帰れ帰れ」


 大男はぶっきら棒な喋り方だが、けっこう優しい人みたいだ。


「私はあんた達に用があるのよ。お兄ちゃんをどうしたいの?」

「兄貴? 双子ってヤツか……」

「早く用件言ってよね~。こう見えてお兄ちゃんは忙しいの。用がないなら帰るわよ?」

「チッ……妹の前でボコるのは気が引けるが……まぁなんだ。生意気な1年坊主に、ここでのルールを教えてやろうってわけだ」


 私のせいでかなりやる気が落ちているようだけど、その言葉、いただきました~!


「ざっと15人ってとこかな? その人数でボコるってことは、リンチってことで合ってる?」

「いや……俺1人でやる。んな情けないマネするわけないだろ」

「リンチでいいじゃ~ん。それじゃあ、正当防衛って言いにくいのよ~」

「はあ? お前、兄貴が俺に勝てると思っているのか??」

「当たり前よ。朱痰犯閃スタンハンセンをブッ潰して、総長の佐藤虎太郎をムショ送りにしたのお兄ちゃんだもん」

「「「「「え……」」」」」


 朱痰犯閃スタンハンセンを出したら、不良たちは一気に怯んだ。


「広瀬……広瀬ジュマルって、あの広瀬兄妹のジュマルか!?」

「あら? お兄ちゃんって有名人だったの??」

「ヤンキー界隈では有名だ……てことは、お前が妹のマッドJS……」

「へ? マッドJSってなに??」

「小学生でありながら、総長を半殺しにして、5人も殺したんだろ? それなのに罪に問われない狂った悪党JSのこと……です」

「はあ!? 殺してない殺してない! 狂ってもいない! 全部お兄ちゃんがやったの~~~!!」


 どうやらヤンキー界隈では朱痰犯閃スタンハンセン壊滅はとんでもない事件だったから尾ヒレがつきまくって、名前も知らない妹のことを「マッドJS」と呼んでいたみたいだ……

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