084 新監督である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ジュマルをプロ野球選手にするぞ~!


 私の発案なのだから、小学校が終わったら中学校にタクシーで乗り付け、マネージャーに精を出していたらがく君は退部届けを出した。練習について行けなかったんだって。

 てか、最初からやる気なかっただろ。いつまで経ってもグローブもスパイクも買って来なかったし……

 結菜ゆいなちゃんと愛莉あいりちゃんはマネージャーを続けているみたいだけど、ジュマルばっかり贔屓ひいきしているのですこぶる評判が悪い。そろそろ辞めさせようかな?


 そんなこんなで練習試合があったので、両親と一緒に応援に行ったら、ジュマルは大活躍。ノーヒットノーランをやった上に、ホームランを4本も打ったのだ。

 この結果には両親ともに喜んでくれたけど、私は次の日、部室に怒鳴り込んだ。


「あんた達なにしてるのよ! あんな弱小校相手にヒット1本って!!」


 そう。同レベル相手だったのに、塁に出たのはフォアボールを入れて6人だけ。これでは強豪校相手に渡り合える気がしないのだ。てか、それほどピッチャーが悪かったのに、当たらないってどういうこと!?


「「「「「緊張して……」」」」」

「緊張するほど上手くないでしょ! ジュマルがいるんだから、気楽にやりなさいよ!!」

「もう、そのへんにしてやってくれ……」

「監督も監督ですよ! あんなに偉そうにしておいて、ジュマルにバントのサイン出してたでしょ! バントなんていらないのよ!!」

「初めて勝ちそうだったから緊張して……」

「うが~~~!!」


 私、大荒れ。初勝利に浮かれていた野球部を怒鳴り散らして、ジュマルを連れて帰るのであったとさ。



 翌日は、さすがに言いすぎたと謝罪しに行ったら、野球部は目の色を変えて練習していた。なので、1人1人に頭を下げて「頑張ってください」と手作りクッキーを配ったら、さらにやる気アップ。明日はたぶん、練習できないだろうな。

 監督にも謝罪しに行ったら、逆に謝られた。監督とは名だけの、物理に詳しいただの素人顧問だったんだって……それは本当に申し訳ない!


 ちょっとこれは抜本的改革が必要そうだ。私は校長室に乗り込んで、今後の方針を話し合うのであった。


「えっと……広瀬ララさんって、小学生でしたよね?」

「はい……でもですね。本気でやってるんです……」


 ただし、保護者でもない小学生が偉そうに言っていたので、校長先生はぜんぜん乗り気になってくれないのであったとさ。



 私では野球部をどうしようもないので、ここは両親頼み。野球部保護者会ってのを作ってもらって、金銭面のサポートをしてもらうこととなった。練習試合の活躍が大きかったね!

 すると校長先生もウハウハ。そりゃ、ボールやバットだってタダではない。それを全て新品にしてくれるんだから、こちらの要望も聞いてもらえるってモノ。

 もちろんそれは、まともな監督の就任。校長先生が探してくれた、近所の元社会人野球部で現在コロッケ屋のおっちゃんが、時給制で監督をやってくれることになった。


 両親は元プロ野球選手をフルタイムで雇おうとしていたから、私が必死に止めたよ。いくら注ぎ込むつもりなのよ……


「おお! マジで凄いな。これ、マジで全国狙えるぞ。マジでマジで」


 さっそく新監督にジュマルの投球やらバッティングを見せてみたら、「マジマジ」うるさい。他に言葉を持ち合わせてないのか?

 ちなみにおっちゃんだと思っていたら、まだ30代だった。ま、私から見たら子供……じゃなかった。小学生から見たら、おっちゃんで間違いないな。


「問題は、チームが弱いのと、お兄ちゃんがバカってことなんですけど?」

「うちにもそんな奴いたな~。右中間とか知らない奴とか。それでもなんとかなるのが野球ってもんだ」

「それはどうかと思うけど……チームの強化はどうするのですか?」

「それは練習あるのみだ。ジュマルを柱にして、邪魔にならないチーム作りをしていくつもりだ」


 新監督は意外とスポ根タイプではなかったので、すぐにプランを提出してくれたけど、私としてはもう少し急いでほしい。


「今年の夏は捨てるのですか……」

「仕方がないだろ。上に行ったら、必ずジュマルは敬遠されまくる。0点で抑えていても誰も点を取ってくれないんじゃ、投球制限に引っ掛かってさよなら負けになっちまうんだ」

「お兄ちゃんなら1人で勝てると思ってたのに……」

「ははは。昔はエース1人でいけたんだけどな~。ご時世ってヤツだ。俺も教え方、考えていかないとな~」

「あ、そうだ」


 今年を捨てることを納得した私は、ジュマルの取り扱い方を念を押す。


「チーム内で、暴力、暴言は絶対にやめてください」

「保護者がうるさいらしいな。俺ん時はそんなんばっかりだったのにな~」

「保護者と言うより、お兄ちゃんがキレますんで。小3の時に、クラスメートに暴言を吐いた教師をボコボコにした前科があるんです」

「はあ? 子供が大人をボコボコにしたって? 噓だろ??」

「事実です。去年は暴走族の朱痰犯閃スタンハンセンをボコボコにしてブッ潰しました」

「あの朱痰犯閃スタンハンセンを小6が!?」

「保護者より怖いのは、お兄ちゃんです。くれぐれも気を付けてください。あと、お母さんも弁護士やっててけっこう怖いです」

「き、気を付けます……」


 これだけ言っておけば、監督もジュマルとチームメートに手を上げないだろう。でも、辞めないか心配だ。

 ブツブツと「ちょっとした小遣い稼ぎで引き受けただけなのに……」とか言ってたし……

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