077 運命の上書きである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ヤクザ、嫌い……
佐藤虎太郎に最後の一言を告げて別れたら、ヤクザ刑事がいらんことを言うので揉めていたら両親が走って来た。
「ララちゃん!!」
「ララ!!」
その2人に、私はどうしたモノかと悩んで立ち尽くしていると、両親は私ではなくジュマルに抱きついた。
「ジュマ君、どこも怪我はない!?」
「ジュマル。ララを守ってくれてありがとう! さすがお兄ちゃんだ!!」
どうやら盛大な勘違いをしてるっぽい。そりゃ、頭脳担当の私が大暴れしていたなんてわかるわけないよね。
しかし、ジュマルはどう言っていいか悩んでいるしヤクザ刑事がいらんことを言いそうな顔をしていたので、私はその輪に飛び込んだ。
「お兄ちゃん凄かったんだよ。私の指示通り、バッタバッタと敵を倒してくれたの。ね?」
「なんかようわからんけど、おう。ララも凄かったで」
「そうかそうか。敵を倒したか~」
「でも、ララちゃんには逃げるように言ったでしょ~」
ジュマルは私の意図通り動いて父親はなんとかなったが、母親は騙せない。
「ママ、パパ。ごめんなさい。やっぱりお兄ちゃんには人殺しになってもらいたくなかったから……」
「そう……ララちゃんはお兄ちゃん想いだもんね……」
「ララも頑張った! ママ、もういいじゃないか。誰も死者が出てないんだから、最高の結末だ!!」
「そうよね! ララちゃんもありがとう。ジュマ君もお疲れ様。今日はゆっくり休みましょう」
やはりあんなことを言っていても、2人もジュマルを人殺しにしたくなかったらしく喜んでくれたから助かった。ヤクザ刑事は何か複雑な顔をしているから、睨んだけどね。
そのヤクザ刑事の相手は、母親。事情聴取とかは後日するように弁護士の力を使って勝ち取ってくれた。私もクタクタだったから、これも助かる。
私たちは警察車両で送ってもらい、疲れ果てた私はパーティーの料理を食べながら、その場で眠りに落ちたのであった……
「あ、アマちゃん。久し振り~」
その日の夢の中、私はいまの姿で綺麗な花畑の真ん中で神様とお茶をしている。
「フフフ。あの猫さんに負けず劣らずの大活躍でしたね」
「あの猫と一緒にしないでよ~。こちとら生身の人間よ」
「いえいえ。私の世界では、ここ50年で一番面白い出来事でした。
「アマちゃんまでやめてよ~」
今まで両親にチヤホヤされまくっていたのだから恥ずかしい。なので神様の褒め言葉を押し返していたら、私の棒術の話に変わった。
「それにしても、せっかく習った薙刀、発揮する場が訪れてよかったですね」
「久し振りだったから、もう必死だったわよ」
「実践も少なかったですしね。でも、あの変人師範には感謝しなきゃですね」
「まぁそうだけど……アマちゃん知りすぎ」
「神様ですもん」
言葉足らずで意味不明な会話なので補足すると、私の使った棒術は、正確には薙刀。父親に薙刀道場に放り込まれて、そこで習ったモノだ。
しかしながら、そこの師範は少々変わっていた。良く言うと実践主義……普通の薙刀道場といえば礼儀作法を重んじるから卑怯なことは教えないらしいが、師範は非力な女性でも男性に勝てるようにと卑怯な技ばかり教えてくれたのだ。
スネ打ちは薙刀の技ではあるが、それに繋ぐ技。掛け声をフェイントに使うだとか、体重を乗せた足潰しだとか、人体の弱点まで教えてもらった。
最後に使った技は、奥義。自爆技に近いから、師範も2、3回しか使ったことがないんだとか。そんな技、よく覚えていた私! 戦後のドタバタで暴漢を何人か退治してから使う機会もなかったのに!!
ちなみに私が父親に薙刀道場に放り込まれたのは、男子と仲良さそうに喋っていたからだったのだが、師範からはそんな注意を受けていないので思ったような効果はない。
だから父親にはそのことを言わずに真面目に通い続けて、そこで出来た女友達と父親の愚痴ばっかり言い合っていました。みんな同じ境遇だったんだって。
「それで……」
少し思い出話をしていた私は、真剣な顔で切り出した。
「これでお兄ちゃんの死ぬ運命は変わったの?」
「そうですね……全ての未来を語るのことはできませんが、暴力団の事務所に乗り込む未来は完全に消えたとだけは言っておきます」
「やっぱりあいつが原因だったのね……」
私の思った通りの結果だったと聞けただけでも有り難い。これで私の役目はほとんど終わったと言ってもいいだろう。
「まぁ長く生きれば、それ相応の問題は出て来ますけどね」
「……へ? まだなんかあるの!?」
「では、今日のところはこのへんで……引き続き頑張ってくださいね」
「いや、まだ何かあるなら教えてよ~~~!」
こうして私は神様から先のことは教えられず、またしばらく連絡も取れなくなるのであったとさ。
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