071 囮捜査である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。私は責任なんか取れないよ? 小5だもん。
家族会議ではジュマルの暴走は許可され、もしもの時は殺人も辞さない構えだ。
「でも、ララちゃんはダメよ? ジュマ君が絡まれそうになったらすぐに逃げてね? ママ、ララちゃんには殺人犯になってもらいたくないの~」
「ララにもしものことがあったら、パパ生きて行けない! しばらく学校休むか? いや、いますぐ転校しよう!!」
「お兄ちゃんもそれぐらい心配してあげたら?」
しかし、私には過保護。このままでは家から一歩も出られなくなりそうなので、ジュマルを出して話を逸らす私であったとさ。
それから3日。大事を取って私とジュマルはサボリ。いや、自主休講。いちおうジュマルの勉強を見てあげたけど、私の前で寝たフリが通じると思うな!
学校や自宅近くではパトカーがパトロールしていたらしいけど、
3日も何も動きがないので、ひとまず私たちはタクシーを使って学校に通うことに。ドアトゥドアって、なんて楽なの? これぞ、お金持ちの醍醐味よね~。
ちょっとした優越感に浸り、支払いはスマホ払い。また残高が増えてる……落としたら怖いからそんなに入れないでって言ったのに~!
うん十万も持っていたら怖すぎるので、優越感はどこへその。私が申し訳なさそうにしているから、クラスメートから心配されまくった。ゴメン。みんなが泥棒に見えてるだけなの。ゴメンね。
ちなみにジュマルはいつも通り。授業も寝て過ごしていると聞いたから、私もイライラしてしまう。殴ってやろうか……
しかしながら、我が小学校は平和そのモノ。1週間もしないうちに
ここまで何もないと、逆に不気味。私は警戒して登下校のタクシーでは周りを見張る毎日。ジュマルはいつも寝てるけど、こんなに寝ていてよく夜も眠れるな。デコピンだ!
そんな日々を過ごし、2週間が経った放課後に、私たちは校長室に呼び出された。そこにはヤクザ刑事がいたから無事解決したのかと思ったけど、あの顔は違うな。
「なんか用ですか?」
「そう怒るなって。まぁ座れ」
なので不機嫌に対応してやったら、ヤクザ刑事も下手に出た。
「あ~……嬢ちゃんのお察しの通り、警備縮小や。申し訳ない!」
「だろうね。最近パトカー減ってたもん」
「俺もけっこう頑張ったんやで? でも、2週間も何もないんじゃ、上がな~」
「5年も根に持ってたヤツが、2週間で諦めるわけないじゃない。警察って、アホばっかりなの?」
「せやねん。てか、警察じゃなくて、上がアホなだけやねん。周りにはそう言ってな?」
「減ってることすら言えるわけないでしょ!」
また苛立ちが募るので、私の膝の上で寝ているジュマルの頬をつねって怒りを抑える。
「そんで……嬢ちゃんから、ママさんにいいように伝えてくれへんか?」
「それが狙いか……ヤクザさんが菓子折持って行けばいいでしょ~」
「嬢ちゃんのママ、べっぴんやけどめっちゃ怖いねんて~」
ヤクザ刑事の泣き言は聞く気なかったけど、ちょっと聞いたら母親に法律用語でめちゃくちゃ怒られたから苦手になったんだって。私が言ったところで苦情は入るに決まってるよ。
「もうわかったから。言うだけ言っておくよ。それで……何か進展はあったの?」
「まったくない!」
「自信満々で言うことか?」
「というか、市外を転々としながら活動し出したから、手を付けられへんねんな~」
「ヤクザさんって県警じゃなかったの!?」
「しがない所轄でさぁ。県警は協力要請出しても断られてなぁ~」
「ヤクザ、使えない……」
「せめて『さん』付けようや? そもそも俺は警察やからな? 絶対に他所で言うなや??」
使えないヤクザ刑事と別れて帰ったら、母親に報告したけど「ヤクザ使えないわね」と、私と同じことを言ってた。広瀬家では「ヤクザ」で固まってしまっているな。
いちおうその件は、母親も苦情の電話を入れたらしいけど「善処する」と言われたらしく、めっちゃキレてたのであったとさ。
どうしてもというのなら、ヤクザ刑事が非番の時に護衛してくれると言ってくれたけど、連れて歩きたくない。
「そのパンチパーマとサングラスと無精ヒゲと服装やめてくれます?」
「全否定!?」
だって、ダッサイもん。ヤクザに見えるもん! 護衛なら、ジュマルだけで充分だ。狙われているのはジュマルだけど……
さすがにこの頃になると私も警戒感が緩くなり、歩いて帰っている。貧乏性だもん。というか、
私の予想では、ここまで現れないということは警察にノーマークの人物が見張っていると思う。前回来た時も、パトカー到着よりかなり早く逃げていたから確実だろう。
歩いていつも見掛ける人に当たりを付けて、ヤクザ刑事に密告すれば、すぐにこの騒動は終わると私は思っていたのだが……
「ねねね、ね姉ささん!」
「仁君。どうしたの?」
「ががが、がく。がくがく、がくくく」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから。深呼吸しよう」
仁君は焦って
「大丈夫?」
「だだ、大丈夫じゃなない。が、岳く君が、さサラワレれタ」
「岳君が?」
「どこにや!!」
「お兄ちゃん! 待て! そんなに強く言ったら仁君が喋れないでしょ!!」
私も急いで先を聞きたいが、ジュマルが激怒しているので落ち着かせながら質問する。
「ゆっくり聞かせて?」
「う、うん。はは廃工場うう。ああっちの」
仁君の指差すほうを見ながら私はスマホを取り出したが、電源が一向に入らない。昨日はタクシーで使わなかったからスマホの画面を見ていなかったので、充電をし忘れていたのだ。や、やっちまった……
「ララ! 俺はララが止めても行くからな!!」
「ちょ、ちょっと待って……ああ! もう!!」
いまにもジュマルが走り出しそうなので、私も考える余裕もない。ジュマルに抱きつきながら仁君に指示を出す。
「仁君は学校で先生に言って! んで、ここの番号に掛けてもらって! 私たちは岳君を助けに行く! 頼んだからね!!」
「うう、うん!!」
「お兄ちゃん行くよ!!」
「おう!!」
私は仁君に名刺を握らせたら、ジュマルと一緒に走り出したのであった……
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