070 覚悟である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。まさかまだ恨まれていたとはビックリだ。
「やっぱ、警察役立たず……」
「おまっ……ヤクザと違って暴走族の案件はやりにくいんやぞ」
「ふ~ん……ところで暴走族って、交通課が対応するんじゃないんですか? なんでマル暴が出て来てるんですか??」
「おい、この嬢ちゃん、なんでこんなことまで知ってんだ??」
「話を逸らした~。てことは、
「なっ……言えるわけないやろ! 小学生がシャブとか言うなや! まさかやってるんじゃないやろうな??」
まさか小5女子がここまで鋭いとは思っていなかったのか、ヤクザ刑事も一瞬顔に出てしまった。それを隠そうと怒ってるけど、私に手を出せるわけがない。
「睨んでも怖くありませ~ん。私のバックには、こわ~い弁護士先生がついていま~す」
念のため弁護士がついているとダメ押ししてやったら、ヤクザ刑事は落ち着いた顔になった。
「広瀬ララ……広瀬……お前、あのべっぴんすぎる弁護士の娘か?」
「美人すぎるね。ママが警察が何もしないって聞いたら、どう思うでしょうね?」
「お前な~。そんな悪知恵ばっかり働かせていたら、いい大人になれへんぞ」
「別に私はどうでもいいの。問題はお兄ちゃんよ。この学校にはお兄ちゃんの仲間がいっぱい居るの。その仲間に危害が及んだら、何をするかわからない……今度こそ、佐藤君が殺されるかもしれないの。だから私は、そうならないようにありとあらゆる手段を用いるわ」
私の覚悟の目を見て、ヤクザ刑事も真面目な目を返して来た。
「お前の兄貴、本当にそんなことできるんか?」
「できる」
「
「数なんて関係ない。お兄ちゃんがキレたら、自分の命を省みずボスの首を噛みちぎるわ」
「……チッ。マジみたいやな」
メンチの切り合いに負けたのは、ヤクザ刑事。先に目を逸らして、頭を掻きながら考えている。
「わかった。俺ができる限りのことはやってやる。これ、俺の直通電話や。もしも命の危機がある場合は、すぐにかけろ。100人のマル暴引き連れて5分以内に駆け付けてやるわ」
ヤクザ刑事から譲歩を引き出し名刺を受け取ると、私は茶々を入れる。
「マル暴って、そんなに人数いるの?」
「お前な~。察しろよ~」
やっぱりいなかったんだね。
カッコイイことを言っていたヤクザ刑事は、最後まで私に言い負かされてカッコ悪く去って行くのであったとさ。
この日はけっこうな騒ぎだったので、しばらく警察が小学校の周りを固め、午後の授業が終わった頃に、連絡を受けた保護者が迎えに来ていた。
私とジュマルは母親が迎えに来てくれたけど、警察と話があると言うので6年生のクラスに残って、窓から心配そうに歩く保護者や生徒を見ていた。
「あ~あ。みんなに迷惑かけちゃったな~」
「ララは何もしてへんやん。てか、俺が悪いんか? それやったらゴメン」
「ううん。お兄ちゃんも悪くない。でも、起点であることには変わりないのよね~」
「ようわからんけど、どついたらええんか?」
「う~ん……最悪、それしか手がないかも……」
「ララが止めへんの珍しい……」
口うるさく暴力を止めていた私が否定しないので、ジュマルも何かを感じ取ったみたいだ。
それから2人で喋ることもなく外を見ていたら、教室に母親が入って来た。
「ララちゃ~ん。ジュマ君。お待たせ~」
私は机から飛び下りてランドセルに手を掛けたら母親が変なことを言い出した。
「ララちゃん。ヤクザさんとメンチ対決で勝ったって本当??」
なので、ズコーッとこけそうになった。
「そんなことするわけないでしょ~。てか、誰がそんなウソ言ってたの?」
「ヤクザさん本人から聞いたんだけど……」
「あの人、ああ見えて刑事さんだよ?」
「あっ! 刑事さんの間違い。でも、あの顔はどう見てもヤクザよね? ママ、何もされてないのに被害届け出しそうになったわ~」
「なに罪?? アハハハハ」
「詐欺罪……いや、わいせつ物陳列罪でもいけるか……アハハハハ」
そんなバカ話をしながら皆で外に出ると、タクシーに乗り込み家路に着く。そうして家に帰り、父親も帰宅して夕食を食べ終えたら、家族会議が始まる。
「なんで俺まで……」
「お兄ちゃんのことだからよ。てか、いつもお兄ちゃんのことを私たちで話し合ってるのよ! 一回ぐらい参加しなさい!!」
今日はジュマルも強制参加。よくよく考えると、この家族会議はジュマルのことが8割ぐらい占めているから、当たり散らしてしまった。
その間に母親は今日の出来事を父親に説明して、私もジュマルの服を掴みながら補足する。
「なるほど……暴走族相手じゃ、ママも警察も分が悪いのか……」
「そうね。暴力団なら、構成員も所在地もハッキリしてるから、接近禁止とかならやろうと思えばできるけど……」
「暴対法の適応外だもんな~」
両親が賢い会話をしているなと眺めていたら、答えは出たようだ。
「もうやっちゃえ。責任はパパが取る」
「どんな罪だろうと、ママが最小のダメージにしてあげるわ」
その答えも、やっぱりカッコイイ。私が母親の時は、そんなこと言えなかったよ。あの猫も責任取るとか言って、土下座しただけだったし。まぁあんなに必死なあの人の顔は見たことなかったか……
私が前世に子供が起こした事件というには些細な傷害事件のことを思い出していたら、ジュマルにも両親の覚悟は伝わったようだ。
「ララも似たようなこと言ってたで?」
「へ??」
「ララちゃん?」
「ララ??」
「言ってない言ってない!? お兄ちゃんの暴力事件を覚悟しただけ。責任は取らないから安心して!!」
いや。ジュマルが梯子を外したから、両親は出番を取られたようなガッカリした顔を私に向けるので、必死に言い訳するのであったとさ。
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