058 クッキングである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。両親がいつから私にGPSを付けていたか知りたい。


 GPSの件は母親がとぼけ続けるので当たりを付けて質問していたら、私のスマホにも何か仕込まれているっぽい。ということは、スマホを持った直後からだな……

 おそらくだけど、スマホだけでは落としたり誘拐犯に捨てられた場合を想定して、腕時計に仕込んだのだろう。まだまだありそうだな!


 ちなみにジュマルはどこに付けているのかと聞いたら、いつも履いてる靴に入れてるんだって。つまり私の靴にも仕込まれてるんだな……

 なんとかGPSを排除したいけど、そんな知識もないし頼る相手もいないのでは排除しようがない。それにこれを取ってしまうと両親が警察と共に大捜索しそうだ。


 私は泣く泣くいまは諦めて、年齢制限を提示していたら、母親のスマホに何か反応があったらしい。


「ジュマ君こっちに向かってるみたいよ。迎えに行こっか?」

「うん。でも、何歳まで監視するかはいつ発表するの?」

「パパと熟慮を重ねて、できるだけ早期にするわ」

「政治家みたいなこと言わないでよ~」


 結局この日は先送りにされただけで、監視は永遠と続きそうであったとさ。



 母親と一緒にジュマルを見送った場所に着いたら、時間通りに戻って来ていると思われるけど、視界にはまだ見えない。


「あっれ~? もう見えてもよさそうなんだけど……距離の設定がおかしいのかしら?」

「たぶん上かも……」

「上って?? わっ!?」

「にゃ~~~!!」


 私が上を見て母親も続いたら、ジュマルが木の枝から飛び下りて来たので母親は驚いた。私は予想通りだけど、手に持っている物は予想外だ。


「なに持ってるの?」

「これ? なんか帰り道におったから捕まえてん。うまそうやろ??」

「ウサギは食べ物じゃない! かわいそうでしょ! 離しなさい!!」

「えぇ~。肉やのに~」

「肉じゃない! ウ~サ~ギィィ~!!」


 確かに私が持って帰って来るなと言ったリストにはウサギは入ってなかったけど、いるとは知らなかったんだもん! お母さんは写真撮らない!!

 ウサギは怪我もなく森に帰って行ったので、熊とかイノシシを持って来なくてよかったとコソコソ話し合う私と母親であったとさ。



 初キャンプはランチのバーベキューで締めたら、ちょっと遊んでから解散。各々の家族に分かれて車に乗り込み家路に就く。

 夏休みの予定はこれで終わらず、ママ友スリー家族と海に行ったりうちを溜まり場にされたりしていたら、後半にはピタリと来なくなった。また夏休みの宿題してないんだって。


 うちは家族総出でジュマルの宿題を早々に終わらせたから、残りは絵日記だけ。毎日私と一緒に書いているから大丈夫。

 ただ、絵が病んでいるように見えるから、何か違う理由で両親が呼び出されないか心配だ。虐待とか戦争してる国の子供がこんな絵を書いてたんだもん。


 私も宿題はすぐ終わらせて違う勉強に精を出していたから、「遊び」というスケジュールが無くなったのでやっとゆっくりできる。後半は悠々自適に韓流ドラマ鑑賞だ。

 そんな自堕落にドラマを見ながら、ちょっといいセンベイや緑茶を飲みつつ、隣で寝てるジュマルの頭を撫でていると、私の腕時計が光ったり揺れたりした。


「何この腕時計? 気持ち悪っ……あ、ママがスマートなんとかって言ってたっけ。てことは、電話かな? 部屋に取りに行かなきゃ。よっこいしょ」


 私は面倒くさそうに立ち上がると、自室でスマホを確認する。あとで聞いた話だと、腕時計でも確認できたんだって。だから家でもずっとつけてろと言われてたのか……


「ママは遅くなるからパパの返事待ち……か」


 家族のグループトークには母親からの連絡があったので、「オーケー」のスタンプとかいうのを送信。また2階まで取りに来るのは面倒なので、スマホを持ってリビングに戻る。

 そこでジュマルが私のスマホをカリカリしようとしたので怒り、ご機嫌取りでアゴを撫でていたらスマホが鳴った。


「なになに……パパも遅くなるんだ。2人とも忙しそうだね」


 このあと両親のやり取りが続き、結論はネットで配達してもらおうとなったので食べたい物を聞かれた。


「お兄ちゃん、夕食は何がいい?」

「魚やな」

「だろうね」


 聞くまでもなく魚だったので、頑張ってフリック入力しようとしたけど閃いた。


「私に任せてっと……だから何もしなくていいって~……よし。お兄ちゃん、買い物行くよ~」

「おう。走るんやな」


 両親から許可をもらったら、ジュマルを連れて一番近くの高級スーパーへ。やっぱり高いなとかジュマルにエサを与えながら食材をスマホを使って買ったら、家に帰ってキッチンに立つ。


「と、届かない……」


 でも、高くて使いづらいので、台を探すところから始める私であった。



「魚作るんやんな?」

「魚料理ね。というか、邪魔だから向こうで待ってて」


 ジュマルを追い払ったら、レッツクッキング。食材の下処理をし、お米を研いだら味付けしてスイッチオン。お魚はグリルで焼き、切り身は大根と一緒に煮込む。お味噌汁も忘れない。

 私が鼻歌を歌いながら手際よく料理をしていたら、時々ジュマルが覗きに来ていたので、ちょっとだけつまみ食い。


「完成したからリビングに運ぶよ~」

「おう!」


 ダイニングテーブルでは今日のメニューには合わない。ローテーブルに並べて写真に撮ったら、私は正座、ジュマルはあぐらだ。


「さあ、魚介類尽くしの和定食、召しあがれ~」

「いただきます。うまっ! これもうまい!」

「う~ん。この味、久し振り~」


 今日のお品書きは、ブリ大根に焼き鮭の炊き込みごはん。田舎味噌を使ったアサリの味噌汁。漬物だけ市販品なのは残念だけど、その他は生前の味その物。

 お袋の味と言いたいところだが、私の味。もしくは、私が長年かけて作り出した、後藤家の味だ。


「うまうま。めっちゃうまいな?」

「うん。お粗末様」

「ん? ララ、なんで泣いるんや?」

「泣いてる? あ、ホントだ。自分の腕前に感動しちゃったな~」

「なんかようわからんけど、わからんこともないかも」


 ジュマルの言っていることはサッパリわからないけど、自分が泣いている理由なんて自分なんだからわかる。


(なんだかんだで、あの人の好物ばかり作っちゃったわね……フフフ)


 遠い昔の夫婦生活を思い出し、記憶と共に噛み締める私であった……

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