057 続・キャンプである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ジュマルは熊ではない。
ジュマルが熊みたいに魚をとっていたからけっこうな騒ぎになったけど、10匹もあれば充分だろう。ジュマルは全部食べるつもりみたいなので、食べたい人にはお裾分けしてあげるようにお願いしておいた。
そうこうしていたら日が傾いて来たので、夕食の準備に向かう。子供たちは私の引率でシャワーだ。
「あれ? ママたちは??」
「ララちゃんに任せてるって言ってたよ?」
「もう。勝手だな~。お兄ちゃんからさっさとシャワー浴びちゃって」
母親のツッコミを待っていたのにいないのでは遊んでられない。まずはジュマルからシャワーを浴びさせて、護衛に任命。残りの子供を順番にシャワー室に入れて任務を完遂する私であった。
テントに戻ったら両親がいたので苦情を入れ、着替えも済めば全員で料理のお手伝い。そして夕方にはベキュー大会の開始。肉に魚介類に贅沢三昧だ。
私はジュマルの隣で見張り。魚を見る目が、どう見てもハンターなんだもん。取り分けて、貝なんかも食べさせてみた。
「これもうまいな~」
「お兄ちゃんは野菜以外、なんでもそれでしょ。ピーマンも食べなさい」
「いやや。アレは毒がある」
「毒があったら私はとっくに死んでるでしょ~」
「それより俺の魚はどこや? 誰か盗んでないやろな??」
「誰も盗んでないから怒らないの。おっちゃんに聞きに行くよ」
自分のとった物には執着心があるみたいなので、手を繋いで愛莉ちゃんパパの元へ。早く欲しいとお願いしてみたら、ちょうど焼き上がったとのこと。ジュマルはさっそくメインディッシュに頭からかぶりついた。
「うまっ。ハフハフ。でも熱い。ハフハフ」
「焦らないでも大丈夫だから。私もちょっともらうよ? うん! 泥臭いと思ったけど美味しい。おっちゃんは腕いいね~」
「わははは。伊達に20年も釣りしてないってな」
私が褒めたら愛莉ちゃんパパは鼻高々。でも、愛莉ちゃんママに伸びた鼻を折られていた。釣り行く時間があるなら家族サービスしろだってさ。
それで笑いが起こり、皆も川魚に挑戦したいと寄って来たので、家族に1匹ずつお裾分けする私であった。ジュマルがケチなんだもの。でも、苦手な人もいたからちょうどよかったみたい。
この日はお腹がいっぱいになったら星を見たり焚火を囲んだりして、各々のテントで休むのであった……
次の日は、朝食を食べてからパパさん方と子供たちで釣り。全員で釣り糸を垂らしてみたけど、子供たちに大不評。ぜんぜん釣れないんだもの。
てか、子供が10分も待ってられると思ってたの? お兄ちゃんなんて、もう5匹も捕まえているよ?? 戻ろっか。
私も釣りは苦手なので子供たちでテントに向かっていたら、途中でジュマルが立ち止まった。
「どうしたの?」
「走りたいんやけど……」
「ここを? 森の中に入ったら迷子になっちゃうからダメ」
「迷子にならんかったらいいんか? ぜったい戻って来るんやったらいいんか??」
ジュマルが珍しく懇願して来るので、私も少しかわいそうに思ってしまった。
(元々はこんな森の中で暮らしていたって聞いたか……お兄ちゃんにとっては故郷みたいなモノなのかもしれないわね。致し方ない)
私は腕時計を外し、ジュマルの左腕に装着する。
「1時間だけだよ? この短い針が10時を指すまでに戻って来て。じゃないと、みんなにすっごい迷惑が掛かっちゃう。約束して」
「お、おう。この針が10やな」
「あと、虫とか魚とか草とか食べないで。水もこの水筒の水しか飲んじゃダメだからね」
「わかった」
「それと、虫とか魚とか鳥とか持って帰って来ないでよ」
「わかったから、もう行かせてくれや~」
私が真剣にお願いすることでジュマルもわかったようだけど、付け足ししすぎて泣きそうな顔で走って行くのであっ……
「しまった! 枝から枝に飛び移るのは禁止~~~!!」
でも、足りなかった。私は慌てて叫んだけど、ジュマルは木を登り、枝から枝に飛び移って森の中に消えたのであったとさ。
遅ればせながら私は駆け足でテントに戻ったら、子供たちは焚き火で焼きマシュマロをして楽しんでいた。私も誘われたけど、母親に報告があるので一緒にテントに入った。
「そう……ジュマ君、森に帰ってしまったのね……」
「ママ、聞いてた? 1時間以内に戻って来るから心配しないでって言ったのよ??」
「冗談よ~。ジュマ君なら例え遭難しても、ひと月ぐらい大丈夫よ~。それだけあったら見付かるでしょ」
「ちょっとは心配してよ~。私もそう思うけど」
まったく心配しない母親に私も同意してしまったけど、このまま帰って来ない可能性はゼロではない。猫として生き兼ねないもん。
この話はもう終わりとなったので、私たちも焼きマシュマロパーティーに参加。すると母親はチラチラとスマホを見ていたので、私は後ろから覗き込んだ。
「円がふたつあるね。なにそれ?」
「ん~? なんでもないよ~??」
「なんでもないなら、なんでそんなに確認してるの?」
「ちょっと見てただけよ~」
「そうなんだ~。GPSかと思ったよ~」
「なんでわかったの!?」
「スパイ映画」
母親がすぐに引っ掛かったのでごまかしておく。やっぱりジュマルのことを心配してたんだね。
「そんなの付けてるなら言っておいてよね~」
「ジュマ君なら気にしないだろうけど……なんでもないわ」
「私にも付いてるの!?」
「バレちゃった。てへ」
てへぺろしている母親に初めて怒りを覚えたけど、どこにGPSが付いているか気になる。母親はぜんぜん教えてくれないし……
「それもハズレ~」
「もう! いい加減教えてよ~」
「あはは。ララちゃんがわからないのが珍しいんだも~ん。じゃあヒント……いまはララちゃんに付いてませ~ん」
「はい? ……あっ! 腕時計!!」
「せいか~い。スマホの画面を見てたから、すぐに気付くかと思っちゃった。やっぱり子供はこうでなくっちゃね」
「腕時計、もうつけない……」
「ゴメンゴメ~ン」
母親にハメられた私は、頬を膨らませてヘソを曲げるのであったとさ。
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