056 キャンプである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。母親の仕事は弁護士で父親はゲーム会社の社長である……たぶん。
母親の初仕事から我が広瀬家の周りは騒がしくなったが、さすがは弁護士。家と学校には取材をしたいと言う人はすぐにいなくなった。
おそらく弁護士って仕事は怖がられるんだろうね。裏の顔は関係ないと私は信じてるよ~?
しかし、学校の生徒はうるさい。私は一言も言っていないのに、どこで聞き付けたのか母親が正義の味方だと私までチヤホヤして来るのだ。母親が褒められるのは喜ばしい限りだが、グレーな戦い方を知っている私は微妙な顔。
早くこの騒ぎが落ち着いてくれと祈る毎日であったが、夏休みに入ったから助かった。リビングのソファーで私はぐで~んとなったら、そういえば去年も1学期は大変だったと泣きそうになった。
私たちが夏休みに入ったからといって、両親の仕事は休みにならない。母親は特に「美人すぎる弁護士」ってことで有名になってしまったから、仕事が大量に舞い込んでいるそうだ。
ただし、母親の事務所には弁護士が1人と最近雇ったパラリーガルのお姉さんしかいないから、全てを受けられるわけがない。
ほとんど断って、近場の楽な依頼かコストパフォーマンスのいい依頼、短期間で出来そうな刑事事件しかやっていないらしい……
「だって~。ララちゃんと過ごす時間が減るんだも~ん」
「せめて子育てで大変って言ってくれない? 外でもそう言ってるって聞いてるよ??」
理由はそういうこと。子離れというか私離れがなかなかできない母親であったとさ。
今年の夏は、去年とはちょっと違う。母親が仕事で家を空けることが多いのは置いておいて、去年からママ友スリーと遠出する約束をしていたのだ。
というわけで、今日は一泊二日のキャンプにやって来た。
「おお~。ええとこやな。なんか狩って来てええか?」
「ええくない! お兄ちゃんもテント張るの手伝うの!!」
心配していたジュマルは森に帰らないのはよかったが、猫の本能はまだ残っているな。小3に狩りなんてさせるか!
保護者たちは男女に分かれて昼食の準備とテントの設営をしていたので、私はジュマルの手を引いて設営に参加。というか、私は応援だけ。不慣れなんだもん。
パパさん方の指示をジュマルにやらせたり、「すご~い」とか「さすが~」とか適当に言っていたらパパさん方はやる気満々。
料理の手伝いをしていた笹岡
昼食のカレーができたら皆でワイワイ食べるのだが、パパさん方が精も根も尽き果てていたからママさん方も気にしていた。
これは私のせいでもあるけど、わざわざ言うこともないのでジュマルにエサをあげていたら、愛莉ちゃんにチクられた。子供って秘密の共有ができないんだね。
「ララちゃ~ん??」
「ゴメ~ンちゃい」
「「「「「うっ!?」」」」」
「なんでこんなにあざとい子になっちゃったんだろ……」
母親が怒ったような目をしていたから謝っただけなのに、バッタバッタと膝を突く皆であった。父親は何故か仰向けに倒れたけど……
お昼からは、川で水遊び。子供たちは水着に着替えていたので、私も着せられた。水辺でママさん方とまったりしたかったのに……
こうなっては仕方がない。私は子供を引き連れて水遊びの監視をする。
「ララちゃんは遊ばないの?」
「いま行くところだったの~」
母親に監視されていては行かないわけにはならないので、私はバッシャバッシャと水を掛け合う木原
「何してるの?」
「シッ!」
「??」
ジュマルが珍しく真剣な顔をしているので少し様子を見ていたら、素早く右手を動かした。
「にゃ~!」
その直後、岸に走って行ったから追いかけると、魚を両手で掴んでいまにも食べそうになってた。
「お兄ちゃん! 待て!!」
「なんや? ララも欲しいんか??」
「せめて焼いてから食べてよ~。川魚は焼かないとお腹痛くなるのよ~」
「そっか。焼いて食べたほうがうまいもんな。もうちょっと狩るから、ララはその魚、見張っておいてや」
「う~ん……バケツあるか聞いて来るから、食べちゃダメだよ?」
いちおう魚を食べることを止められたけど、ジュマルは食べる気満々なので、私は母親に相談しに行くのであった。
明日は釣りをする予定だったらしくバケツも借りられたので急いで戻ったら、岸には3匹の魚がピチピチしてた。
「え? 手でとってる??」
「はい……お兄ちゃんの特技です」
「てっきりアミ使ってると思ってたわ! 飛んで来た!?」
愛莉ちゃんパパがジュマルの狩りを見て騒ぐのでギャラリーが集まって来て「熊? 猫? どっち!?」と盛り上がるのであったとさ。
人間だよ……
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