059 子供食堂である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ちょっとノスタルジーに浸っちゃった。


 前世でよく作っていた料理を堪能した私は、スマホで検索して証拠作り。小2女子が渋い和定食なんて作ってしまったのだから、今ごろ母親に事情聴取されると焦ったのだ。

 一通りそれらしいページをお気に入りに登録してみたけど、これで合ってるかはよくわからない。ジュマルは食べ過ぎてひっくり返って寝てるから役立たず。


 両親はまだ帰って来ないみたいなので、洗い物。すっごい高そうな備え付けの食洗機はあるんだけど、母親は何故か手で洗っていたから私もそれに習う。汚れが落ちないのかしら?

 とりあえず洗い終えた食器は食洗機に入れておいたけど、これで合ってるのかしら? なんか操作してたように思うけど、あとで聞こっと。


 食機洗いを終えてスマホを見たら、両親は修羅場っぽい。どっちが早く帰れるかではなく、お前が早く帰れと言い争っていた。私たちのことが心配なんだろうね。


「私たちは大丈夫だよ。ごはんも食べた。これ、作ったのわたし~。写真っと……アレ? こうかな??」


 私の手作り料理の写真を何度か失敗しながらグループトークに載せたら、何故か両親の文章が同時に文字化けした。これはバグってるってヤツだな。これだからスマホはややこしいのよ。

 よくわからないので「お仕事頑張って。料理は温め直して食べて。先に寝ます」と送ってから、私はジュマルをお風呂に入れて眠りに就くのであった。



 翌朝……


「繧√▲縺。繧?セ主袖縺励°縺」縺滂ス橸ス橸ス橸シ」

「繝代ヱ縲∫セ主袖縺励¥縺ヲ豁サ縺ャ縺ィ縺薙□縺」縺」


 昨日は帰りの遅かった両親とは顔を合わせずに寝たので、2人して朝から何か言ってるけど、文字化けしていてよくわからない。スマホが壊れたんじゃなかったのかも?


「ママ、パパ、おはよ~。さっきから何語で喋ってるの??」


 そのことを私が質問したら、興奮してただけだって。ちゃんと寝たか心配だ。

 文字化けは、「早く帰って食べたい」とか「料理の感想」とか「天才」とか「手を切ってないか」とか様々な思いが込もっていたらしいけど、読めないし聞こえなかったよ。ちゃんと言って。


「総じて美味しかったってこと?」

「うん! ママより美味しかったよ!!」

「娘の手料理、尊い……グスッ」

「んじゃあ、続きは夜ね。お兄ちゃん、学校行くよ~」

「ララちゃ~~~ん」

「ララ~~~」

「「行かないで~~~」」


 学校なんだから、行くよ。


 両親の熱い想いが長すぎて、学校の準備はとっくに終わっていた私たちであったとさ。



 それから料理の件はかなり疑われたり、「月一でもいいから」とか「隔週でもいいから」とか「週末だけでもいいから作ってほしい」と言われたり……あとからのほうが増えてるんだよ。

 ジュマルもあの日から料理を作って欲しいのか、スリ寄って来ることが増えてうっとうしい。言葉を使ってお願いしろ。


 まぁうちの食卓では洋食か焼き魚がほとんどなので、私も和食に飢えている。隔週、時々両親に手伝ってもらって作ることにした。子供の体じゃしんどいもんね。

 というわけで、さっそくリクエストに応えて作ったけど、ジュマルに不評。


「サカナ、1個だけか?」


 本日のお品書きが、松茸ごはん、筑前煮、ホッケの塩焼き、根菜の味噌汁だから、魚が少ないと怒っているのだ。


「ホッケ丸々一尾あるじゃない? 私の半分あげるから」

「にゃ~!」

「我慢できそうね」


 本当は鮭にしたかったけど、こんなことになりそうだったから大きな魚にして正解。私に一尾は多すぎるもん。

 本日の主役は、やはり松茸ごはん。前世ではたまに元夫が分けてもらって来た松茸でしか国産を使えなかったけど、さすがはお金持ち。まだ高い時期なのに、ポンっと買ってくれた。

 そして、めちゃくちゃ美味しい。ゴルフ場産とは違うね。これなら焼き松茸がベストだったな~。


 私が反省しながらパクパク食べていたら、ガツガツ食べていた母親と父親もやっと落ち着いて食べ出した。


「ホント、ララちゃんの炊き込みごはん、最高~」

「筑前煮もちょうどいい塩梅だよな。しかも、余った具材は味噌汁に入ってるのかな?」

「みたいね。食材を余すことなく使うなんて、主婦みたい……いえ、シェフ?」

「うん。シェフだ。コストまで考えているもんな」


 母親の主婦が正しいです。私がシェフなんておこがましいです。いいとこ、場末の居酒屋の女将止まりですよ。


「これならララちゃん、お店持てるんじゃない?」

「いいな、それ。パパがお金出してあげるぞ~?」


 まず、私の姿を見てください。小2女児が店主って、どんだけブラックな職場なんですか。


「名前は~……トラットリア、ララなんてどう?」

「イタリア語か~……ここは見た目を前面に出したほうが売れるだろ。子供食堂……これだ!」

「それよ!」


 これでもそれでもありません。その名前だと、私はボランティアをすることになってますよ? 給料すら出ません。

 そういえばあの猫が手伝った子供食堂って、まだ残ってるのかな? 大人になったら探してみよう。でも、いまはないわ~。


「私、ボランティアを仕事にしたくない……」

「ボランティア?」

「あっ! 子供食堂ってもうあったわよ!?」

「そうだ! どっかで聞いたことあると思ったら、恵まれない子供の施設だ!!」

「そもそも私、まだまだ働かないからね!!」

「「あっ……」」


 私が暗い顔をしたり怒ることで、両親は先走りすぎたと反省するのであったとさ。



 夏休みが終わり、2学期が始まったらジュマルはすでに学校に慣れたようなので、私も平和な日々を過ごして1ヶ月が経った。

 今日はなんだかカレイの煮付けが食べたい気分だったので献立を考えていたら、4時間目が始まって間もない時間に私のクラスの扉が勢いよく開いた。


「ララちゃん!!」


 驚くクラスメートが見た場所に立っていたのは、ひとつ年上の結菜ゆいなちゃん。その泣きそうな顔に私は嫌な予感がして飛び跳ねるように立ち上がった。


「お兄ちゃん??」

「そう! ジュマル君が先生を~~~」

「すぐ行く!!」


 私は全てを聞く前に、ランドセルからポシェットだけ抜き取って走り出したのであった……

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