050 初めてのお使いである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。曲芸乗りはやめてほしい。
曲芸乗りができたジュマルは自転車に乗れたと言い張るので私も認めてあげたけど、これは封印。ペダルに足は乗ってないしブレーキに手をかけていないのでは、絶対に事故る!
自転車を買ってくれた両親には悪いけど、ジュマルの曲芸乗りを見せて子供がマネしたら死人が出ると説得して、自転車じたいを封印してもらう私であった。
それから私の誕生日となり、自転車を買ってもらったから何もリクエストしてなかったけど大量に物を与えられて感謝していたら、3学期が終わった。
「ララちゃんにお願いがあるの~?」
春休みの宿題をさっさと終わらせてまったりと韓流ドラマを見ていたら、母親が猫なで声を出して寄って来た。
「なに?」
「ちょっとね~。ママ、いま手を離せなくてね。ジュマ君と一緒に買い物に行って来てほしいのよ~」
「買い物なら、いつもみたいにネットで買ったらいいんじゃない?」
「それが今晩の夕食に間に合わないの~。頼めないかな~??」
「パパに買って来てもらえば?」
「パパも忙しいって~」
母親の態度がなんだか気持ち悪いので何度も拒否ってみたけど、どうしても行かせようとしているってことは、これは何か
あ、これはひょっとして、かの有名な初めてのお使いなのではなかろうか? そういえば私、生まれてからお金を使ったことがないな……間違いない! てか、そんなの余裕だよ~。
謎解きも終わったので、私は母親の遊びに付き合ってあげるかと重たい腰を上げる。
「なに買って来たらいいの?」
「やった! ちょっと待ってね」
母親はスマホを取り出して操作しているので見ていたら、私のスマホに何かしたとのこと。とりあえず自室にスマホを取りに行き、母親に渡す。
「ここをタップしたら目的地の地図が出て、これをタップしたら買い物のメモが出て来るでしょ?」
「う、うん……」
「それで、会計の時にこのマークをタップして、専用の機械にスマホの裏を当てたら支払いが終わるからね?」
「はい??」
「だからね……」
初めてのお使いがデジタル化!? 私、携帯電話で買い物なんてしたことないよ~~~!!
「大丈夫? 簡単でしょ??」
「私、メモ用紙と現金がいい……」
「なんで? ララちゃん、私のお母さんみたいなこと言ってるよ??」
なんでと言われても、精神年齢が母親のお母さんより上だからだ。そんなことを言えない私はジュマルと共に、スマホひとつで家から追い出されるのであったとさ。
「ララ。どっか行くんか?」
家の前で、スマホを首からぶら下げ自転車の取っ手を握って途方に暮れている私に、一緒に追い出されたジュマルから質問が来た。こいつは何も聞いていなかったんだな……
「うん。買い物。お兄ちゃんは私の後ろからついて来て。追い抜いたらダメだからね?」
「抜かんかったらええんやな。任せとけ」
「う、うん……」
任せたいのはスマホの操作だけど、こいつは使ったことがないから無理だな。私より、ジュマルに初めてのお使いさせてよ!
「えっと……こっちみたい。間違ってたら戻るからね」
「おう!」
返事だけはいいジュマルを連れて自転車で移動したら、交差点でもう一度スマホの地図を確認。すると、太い線上を進んでいたから、道は間違ってなさそうだ。
「うん。大丈夫そう。ちょっと距離があるから、離れずついて来るんだよ?」
「おう! でも、ママとあいつがついて来てるけどええんか?」
「見ないであげて! いちおうどの位置にいるかだけ教えて」
「後ろや」
ジュマルはもう両親を発見していたので、私は道に迷ったフリをしてチラッと見たら、自転車に乗ってサングラスを掛けた不審者が凝視していた。
(自転車を買って来たのは、このためだったんだね……あと、どっちもシャーロックホームズみたいになってるから一目ではわからないけど、高級自転車が隠し切れてません。お兄ちゃんは、においでわかったのかな?)
少し謎はあるけど、初めてのお使いをこなさないことには両親がかわいそうすぎるので、私は自転車を漕ぎ始めるのであった。
電動式自転車は颯爽と走り、ジュマルは私のあとを追って爆走。交差点や信号はジュマルにも慎重に進むように説明し、何度か地図の確認をしてペダルを漕いでいたら、目的地のスーパーに着いたと思われる。
「こ、高級スーパー……」
「もっと走らんのか?」
「着いたの。自転車止めるからついて来て」
私は入ったこともない高級スーパーに気圧されていたらジュマルがどっか行きそうだったので、呆けている場合ではない。ジュマルに手伝ってもらって自転車を止めたら、私は入口に立った。
「本当に初めてのお使いになっちゃった……」
「ん? なんや??」
「なんでもない。それより、絶対に走ったり暴れたりしないでよ?」
「せぇへんせぇへん」
「物に触るのも禁止。欲しい物があったら私に言う。わかった?」
「わかったわかった」
「……じゃあ、行くわよ!」
「おう!!」
ジュマルが適当に相槌しているように聞こえて心配だけど、私は気合いを入れてスーパーに入るのであった……
その後方では……
「いまさらだけど、ジュマルがいきなりリンゴにかぶりつくとかしないかな?」
「それは……ありそうよ! まだ早かったかも!?」
「もう入っちゃったぞ!?」
今まで私とジュマルを微笑ましく見ていた両親が、ここへ来て焦り出すのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます