049 自転車である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。女の……超かわいい私の涙は最強だ!


 運動会が終わってからというもの、広瀬兄妹はモテモテ。毎日のように誰かしらから告白されたけど、ジュマルはいつも通り「しらん」とか言ってるらしい。私は子供はタイプではないので、全員フッてやった。

 あまりきつく言いすぎるとキレられたり、優しくしてもストーカーになりそうなので、ジュマル頼り。


「駆けっこが速い人ってカッコイイよね~。お兄ちゃんより速い人だったらすぐに付き合っちゃう」

「「「「「ウオオォォ~~~!!」」」」」


 勝てない勝負を提示してやったら、男子は毎日走るようになってしまった。すぐに諦めろよ。

 当然ジュマルは、私のために絶対に負けない。てか、負けるわけない。だからすぐに諦めろよ。


 ジュマルに負けて泣いている男子には、女子が優しくフォロー。私が「いまならジュマル以外の男子は弱っているから落としやすい」とそそのかしたから、彼氏が欲しい女子は男子に近付いて行ったのだ。

 これで広瀬兄妹とお近付きになろうとする人は激減。でも、2学期丸々かかったので、冬休みに入ったら私は倒れた。


「ララちゃんお疲れのところ悪いんだけど、ジュマ君の冬休みの宿題……」

「ママたちでやってよ~~~」

「ママたちだとすぐ逃げるの~~~」


 冬休みに入っても、忙しい私であったとさ。



 冬休みの宿題は、私もジュマルもさっさと終わらせて、残りの時間はまったり。ママ友スリーの訪問も少なくしてもらい、家族旅行の温泉で英気を養う。

 そして3学期は無難に過ごしていたら、2月22日、ジュマルの8歳の誕生日となった。


「ジャジャーン。今回は自転車にしてみました~」

「ララちゃんのもあるわよ~」


 私の誕生日はまだ先なのに贈られるってことは、私に自転車を教えろと言うことか……


「パパとママも買っちゃった」

「みんなでサイクリング行こうね~?」


 いや、家族で楽しむためだったみたい。でも、私は気になることがある。


「全部、電動なんだ……」


 そう。子供にまで電動自転車って豪華すぎない? お母さんの特権じゃないの!? これだから成金は……


「ララちゃん。うちの周りは坂道いっぱいあるのよ? 普通の自転車で登れると思ってるの??」

「あ、はい。ムリです。ママ、パパ、ありがと~」


 私が複雑な顔をしていたら、母親がそれを汲んで理由を説明してくれた。自転車で最寄り駅まで下りたら、私も帰って来れる自信はないから感謝しかない。


 でも、どうしてお金持ちって山の上に住みたがるんだろうね~?



 ひとまず私が感謝することで両親も喜んでくれて、広い庭で試乗することになった。


「まだ電源は入れないでね? その状態で乗る練習するわよ~」

「は~い」


 まずは両親が見本を見せてくれたので、次は長男のジュマル。父親が後ろを持って乗せようとしている。


「そのまま漕ぐんだ……あれ?」

「「あれ??」」


 ジュマルの運動神経を持ってすれば、自転車ぐらい余裕だと思っていたけど、何度やってもコテンとこけてる。


「私の自転車でやらせたら?」

「あ、そっか。補助輪がないと、さすがのジュマルでも無理だったか~」

「フシャーーーッ!」


 私がアドバイスして父親がそれに乗っただけなのに、ジュマルは父親に馬鹿にされたと怒ってる。ヒエラルキーの一番下だもんね。

 引っ掻かれそうな父親を私が救ってから、補助輪付きの自転車にジュマルを乗せてみたけど、またコテンとこけた。


「「「なんで??」」」


 補助輪付きでこけるほうが難しい。それなのにジュマルは何度やってもこけるので、私からの試乗となった。



「補助輪は余裕そうだな。普通の乗ってみるか?」

「うん」


 元お婆ちゃん……もとい! 私にかかれば自転車なんて楽勝。主婦だった頃はいまでは考えられない、子供を3人乗せたりしてたからね。

 しかし、ちょっとは失敗しないと怪しまれるので、何度か柔らかい芝生の上に倒れてごまかしておいた。


「ララちゃん上手~い!」

「もう乗れた……やっぱりララは天才だ~~~!」


 ジュマルの自転車を借りて早くも乗れるようになったら、母親も父親もバンザイ。嬉しそうにしてくれた。

 これで私もジュマルに教えられるようになったので、あおったり鼻で笑ったりイロイロ試してみたがまったく上達しない。マジでなんで??


「もうええねん。走ったほうが速いやろ」


 結局はスネてしまい、この日はジュマルは自転車に跨がることはなかったのであった……



 その夜は家族会議。両親はジュマルについて話し合っていた。


「アレだけ運動神経いいのになんでだろ?」

「さあな~? ジュマルにも苦手な物があるのかもしれないな」

「あ、そういえば、電車でも吐いてばっかりだったわよ? 乗り物が苦手なんじゃない??」

「自転車と電車は同じなのか??」


 2人の話を聞いている私も考え込んでいた。


(ひょっとしたら、これも前世が関係しているのかも? 猫だから乗り物が苦手なんじゃないかしら? 将来は、車とかバイクに乗せないほうがいいかもしれないわね)


 要経過観察。日を変えてジュマルの練習に付き合ってあげたけど、上手くいかないので諦める私であっ……


「乗れた! 乗れてるやろ??」

「それでどうやって漕ぐのよ~~~」


 ようやくジュマルは自転車に乗って進めたけど、勢いを付けてサドルの上で逆立ちや片足立ちしていたので、乗れた内に入らないのであったとさ。

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