045 図画である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。なんで私までジュマルの宿題をやらなきゃいけないの!


 夏休みはママ友スリー家族と楽しく過ごせたと思うけど、ジュマルが宿題をしていなかったと最後に気付いたので、あら大変。しかし、ハイスペック夫婦が本気を出したらすぐに終わった。


「全部正解って……お兄ちゃんができるわけないでしょ~」

「「しまった~~~!!」」


 でも残念。ジュマルのレベルに合わせるのを忘れてた。なので私に「どうして先に言ってくれないの?」とか言われても困る。絵日記だって、下手な絵や下手な文章を考えるの大変なんだよ!

 結局ジュマルの夏休みの宿題は、夏休み終了ギリギリどころか深夜まで掛かった広瀬家であったとさ。



 夏休み明けは、私は疲労困憊でジュマルと登校し、宿題が本人がやっていないとバレないようにと祈る毎日。1週間ビクビクして、もう大丈夫だと胸を撫で下ろしていたら、ジュマルのクラスの担任、池田先生に呼び出された。


「あの……なんでしょうか?」

「ジュマルさんのことなんですが……」

「はい……」


 池田先生が深刻な顔をしているので、宿題の件がバレたのだと私は覚悟した。


「体育はなんとかなりましたので、図画工作もなんとかなりません?」

「図画工作??」

「絵を書かそうとしても、まったく何も書かないのですよ」

「よかった~~~」

「え? なんのことですか??」


 宿題がバレていないと私が喜んでしまったので、池田先生は首を傾げる。そのせいでちょっと疑われてしまったけど、なんとか私は話を戻した。


「絵と言われましても……」

「絵日記には下手なりに書いてあったじゃないですか? それを授業中にやらせればいいだけですので。それともアレは、ララさんが書いたのですか~??」


 これは夏休みの宿題は誰がやったかバレてるな。池田先生のあの顔は、それを飲み込んで私から譲歩を引き出そうとしているのだ。


「ぜ、善処させていただきます……」

「よかった~。ついでに音楽もお願いね~」

「はい……」


 こうして私は、池田先生から新たなミッションをついでに付け足されたのであった……



「お兄ちゃん。絵を書いて」

「絵ってなんや??」


 家に帰ったらジュマルに書かせてみようとしたけど、絵から知らなかったよ! 池田先生、今まで何してたの!? そういえば、去年の宿題に絵日記がなかったけど、また隠蔽してやがったのか……


「こういうの」

「おお~。アニメみたいやな。ララは上手いな~」

「マネして書いてみて」

「こうか??」

「こわっ……」


 ジュマルにもわかりやすいようにヒーロー物のキャラを書かせてみたけど、人間から掛け離れた何かおぞましい物になったので、これでは私がレベルを落として書いた「下手くそ絵日記」にも遠く及ばないから訓練が必要だ。

 とりあえずここは簡単なデッサンからがいいだろう。母親に皿に乗せたリンゴを持って来てもらい、テーブルに置いた。


「にゃ~~~!」

「食べ物で遊ぶな~~~」


 でも、ジュマルは猫が出てリンゴをコロコロしてる。それなのに母親は、笑いながら私の隣に座った。


「あはは。久し振りにあんなジュマ君見たね。てか、何その呪いの絵は……気持ち悪っ」

「お兄ちゃんが書いたんだけど……」


 息子が初めて書いた絵を、呪いの絵とか気持ち悪いって、母親も容赦ないな。私もそう思うけど、ひとまず池田先生から図画工作や音楽をなんとかしてくれと言われたとチクッてやった。


「だから絵を書いていたと……この絵は、パパにあげよっか?」

「ママ。パパを呪い殺す気なの??」

「なに言ってるのよ~。ゲームのキャラで使えるかもしれないでしょ~」

「あ、そっち」


 のちにジュマルの絵が使われたゲームが発売されたみたいだけど、絵が怖すぎるって理由で知る人ぞ知るゲームとなったらしい……てことは、ぜんぜん売れなかったんだね。



 それから母親も参加して、ジュマルへの絵画指導。リンゴは丸々食べられてしまったので、皿から書かせてみた。


「ママも下手……」

「え? ちゃんと書けてるでしょ??」

「下手と言うかズルイ。それじゃあ円をふたつ書いただけだよ。『皿』って文字を書くのもズルイよ」

「ララちゃんが厳し~い」


 母親の絵は、立体感が皆無なので戦力になりそうにない。私は娘や孫、幼稚園児にイロイロ書いていたから、けっこう上手いよ?


「ここにこんな感じで影を付けたら……ほら? 言わなくてもお皿ってわかるでしょ??」

「ホントだ!」

「ママって、絵の点数どれぐらいだったの?」

「へ、平均点はあったかな~? 昔のことだから忘れたな~」

「悪かったんだね……」

「だって~。受験勉強とアルバイトで忙しかったから、ないがしろにしてたんだも~ん」


 蔑ろにするなと言いたかったが、もうすでに母親は半泣きになっているのでやめてやる。それよりもジュマルだ。


「……穴??」

「皿やで」

「なんで真っ黒なのよ!?」

「かっこええやん」


 こっちもこっちで深刻。闇を抱えているような絵ばっかり書きやがる。


「見本をマネるだけでいいの~~~」

「ララちゃん。今度はどう??」

「ママは邪魔しないでよ~~~」


 絵画教室の生徒が2人になってしまったので、時間が掛かる私であった。


「ララ。パパの絵は上手いだろ??」

「う~ん……可もなく不可もなく。面白味もない」

「パパだけ評価の仕方が違うくないか!?」


 仕事から帰った父親も参戦したけど、ふっつ~~~うの絵を見せられたので、ちょっと厳しくなる私であったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る