022 保育園である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。母親は意外と怖い人でした。


 私のせいで米川さんが苦情を入れに来たけど、母親が弁護士と聞いただけで謝罪してすごすごと逃げ帰った。


「チッ……全ての権力を剥ぎ取ってやろうと思っていたのに……いや、証拠はあるからやっちゃおっか……」

「ママ、こわい……」

「あっ! 違うの違うの! ララちゃんが酷いこと言われたから、ちょっと怒っちゃっただけなの~」


 なのに息の根を止めようとしていたので、私が現実に引き戻したら優しい母親が帰って来た。母親の意外な一面を知って、私は逆らわないほうがよさそうだと学んだのであった……



 米川さんのことは父親にも知られて、後日、近所の公園に行った時に2人で頭を下げていたけど、米川さんは改心したらしく同じように頭を下げていた。

 そのこともあってかワガママ放題であった理人りひと君もおとなしくなり、ギスギスした雰囲気もなくなって、平和な公園へと様変わりした。でも、ジュマルがボスに変わっただけにしか私には見えない。また女の子はべらせてるし子分が増えたし……


 まぁこれでジュマルも安全になって来たので、母親とだけのお出掛けもできるようになったから、近所の公園に行くことが増えた。

 逆に遠くの公園には足を運ばなくなったので、ママ友スリーからオファーがあった。子供が私たちが会いたいとか言ってるらしい。

 こんなに人気になるとは思っていなかった両親は、涙涙。嬉しそうに公園に行っては、ママ友たちと仲良く喋っている。私もちょっと泣いちゃった。


 そんな感じで日々が過ぎ、1月になったら意外と早くにジュマルの保育園デビューとなった。


「おにちゃのジュマルです。なかまになって」

「よろしく」


 でも、初日は私と一緒に挨拶回り。気が気でないのか、父親も有給取ってやって来てる。


「あの……ご家族全員で見に来なくても大丈夫ですよ?」

「「大丈夫じゃないんですよ~」」

 

 保育士さんはのん気なことを言っていたので、両親はタブレットを持ち出してジュマル取り扱い説明書の授業。

 走り出したら追いつけないだとか、高いところにすぐ登ろうとするだとか、高いところから3回転して着地するだとか、猫とケンカするとか……


「猫飼ってるのですか?」

「ジュマルです……」

「これ、証拠の映像です……」

「……猫ですね」


 ジュマル取り扱い説明書も映像を見せても、保育士さんには猫にしか思えないらしい。しかし、預かることになっているので「猫の飼い方」って本も読むと言っていたそうだ。

 そんな中、挨拶回りは順調。理人りひと君のようなマウントを取りに来る子供がまったくいないので楽勝だ。これならジュマルがボスとして君臨できるから、ケンカになったりしないだろう。


 そうして最後の1人まで紹介したら、両親に詰め寄られている保育士さんの元へ行って紹介する。


「おにちゃのひろせジュマルです。よろちくおねがいちまちゅ」

「あらあら。これはご丁寧に。お姉ちゃんできて偉いね~?」

「わたしはいもうとのララでちゅ」

「パクパク、パクパク?」


 保育士さんは口パクで両親に何か言ってるけど、伝わるわけがない。たぶん広瀬兄妹は、保育士さん目線では規格外なんだろうね。


「おにちゃ。このヒト、ママみたいなヒト。さからっちゃダメ。わかった?」

「う~ん……」

「さからったらわたしがおこる。いいの?」

「わかった……」

「じゃあ、よろしくする」

「よろしく」

「う、うん……よろしくね」


 とりあえず力関係をハッキリさせたら、保育士さんとも握手させる。保育士さんは、ずっと私のこと見てるけど……


「ララちゃんもうちに来るの?」

「わたしはハルからようちえんいく」

「そっか~……え? まだ行ってなかったの!?」

「あい」

「どんな教育してるか教えてくださ~い!」


 保育士さんはちょっとカマを掛けて私の情報を引き出そうとしたみたいだけど、幼稚園に行っているから賢いと思っていたっぽい。でも、行かずにこの賢さだから両親に質問が行ったけど「勝手にこうなった」としか答えられなかった。


「うっそだ~」

「ジュマルを見てください」

「たぶん反面教師みたいな?」

「ハーレム作ってる!?」


 それでも信じられない保育士さんにジュマルを見せたら女の子を侍らせていたので、ますます広瀬家の教育に疑問を持つのであった。



 ジュマルが保育園に通い出すと、私と母親が連日覗きに行って上手くやっている姿に感動。まぁジュマルは基本、部屋の外に出たら庭を大回りで爆走するだけ。子供とはぶつからずに綺麗に避けられている。

 これは、私との約束。ここから出ては行けないことと、仲間を傷付けないことが守られるなら、多少なら飛ばしても構わないと言っておいたのだ。でも、ムーンサルト宙返りは止めるべきか……ムムム。


 部屋の中では基本的に、隅に陣取って丸まって寝てるか、女子に囲まれているかだから静かなモノ。ただし、ちょっとした集団行動や勉強は苦手みたいで、その時も隅で寝ている。

 これも私との約束。興味がないなら静かに寝てろと言っておいたのだ。保育士さんにも、あまり刺激しないように3人で頭を下げてお願いしておいたから守られている。


 守らないと何が起こるかは、私たちもわからない……


 そんなふうに脅しておいたから、保育士さんも下手に刺激しないようにしてるっぽい。だって、たった数日でこのクラスを支配してるもん。


 こうしてジュマルは保育園で集団行動を学んでいるのかどうかわからないけど、なんとか馴染んでくれたのであった。

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