021 母は強しである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ちょっとやっちまったかも……
ボス奥様の子供、米川
「「「「「わああああ!!」」」」」
からの、歓喜の声。今までボス奥様の米川さんには逆らえなかったのか、嬉しそうに私たちは握手を求められた。
「あの……僕たちは何も……」
「えっと……何があったのですか??」
なので、両親はついていけない。私もだ。マジでなんなの? 胴上げはもういいって!
なんだか阪神が優勝したようなことになってしまったが、それも終わると奥様方が理由を教えてくれた。
どうやら米川さんの旦那は県議会議員をやっており、この地域では幅を利かせているとのこと。この公園でも、ちょっとでも素行の悪い子供はグチグチと言われ、逆らう者は「みんな迷惑していますの」と言って追い出していたらしい。
それなのに、自分の子供には甘々。理人君が悪口を言ったり暴力を振るっても「子供のやったことですから」とか言ってやめさせることもしなかったそうだ。
「あの……そんな人にあんなことして、私たちはどうなるのでしょうか?」
「「「「「それは、まぁ……」」」」」
「どうなるのですか!?」
お母さん、ゴメン……また出禁は確実だね。
この日は「これに負けず、また来てくださいね!」とか力強く言う無責任な奥様方に別れを告げて帰路に就く私たちであった……
「ララちゃ~ん。ララちゃんまでどうしたのよ~」
今まで頼りになった私がやっちまったからには、母親も泣きそうだ。
「わたし、わるくない。おいかけっこしただけ……」
「ママはそのあとのこと言ってるの。米川さんを言い負かしてたじゃな~い」
「ち、ちらない……」
私が苦しい言い訳で言い逃れしていたら、父親が助けてくれる。
「まぁ子供のやったことだからいいじゃないか。それにみんな迷惑してたんだから、褒めてあげよう」
「でも、またあの公園に行けなくなるのよ?」
「あんな公園、こっちから願い下げだ。いつもの公園のほうが居心地いいじゃないか」
「それはそうだけど、あの公園にはララちゃんが通う幼稚園の子供が行ってるのよ? 幼稚園でララちゃんが仲間外れにされないように行ったのに、本末転倒じゃない」
「あ……」
それならそうと、先に言ってよ!
「ま、まさか……」
「うん。理人君も、そこに通ってるって言ってた……」
なんてこった! 私、入園前に巨大な敵を作ってしまったよ!!
「わたし、やっぱりいえでドラマみたい……」
「……そうしよっか?」
「それでいいのか??」
近所の公園デビューは、ジュマルのせいではなく私のせいで、多大な傷を負った広瀬家であったとさ。
それから数日が経つと、広瀬家に来訪者がやって来た。
「どうして公園に来ないのですの!?」
来訪者とは、米川さん。話を聞くに、私たちが近所の公園に来るのを罠を張って待っていたのかも? でも、何故に私までダイニングに同席させられてるの??
「どうしてと言われても、夫の仕事が休みの時にしか外に出ないので……」
我が広瀬家では、ジュマル対策で外出には父親が必ず同行しているのだから、母親も困りながら説明している。
「やっぱり問題があったのですね!」
「はあ、多少は……でも、最近はジュマ君も落ち着いて来ましてね。夫の出番も減っているんですよ。こないだも無闇に走り回ったりしなかったですよね? ここまで来るのに、長かったんです~」
米川さんは声を大にして攻めたが、母親は苦労話で反撃。涙ながらに語っているので、米川さんも何も言えなくなっている。
「あ、私ばっかり喋っちゃって……今日はどういったご用件でしょうか?」
あまりにも長く喋っていた母親だったが、人が良すぎる。攻め手を譲らなくていいのにな~。
「おたくのせいで、理人ちゃんが公園に行きたくないとか言い出したのですよ! どうしてくれるのですか!?」
「行きたくないなら無理に行かせなくても……それに、どうして私たちのせいになるのですか?」
「おたくのララちゃんですよ。理人ちゃんが追いつけないのを、ずっと遅いとか言っていたらしいですわよ。だからあんなに怒って追いかけ続けたのですわ!」
「追いつけないなら諦めたらいいのに……」
母親も面倒になったのか、ちょくちょく本心が漏れている。でも、睨まれたからには私の事情聴取に変わった。
「遅いなんて言ったの?」
「うん。いった」
「どうして?」
「みたとおりいっただけ。なにがわるいの?」
「それは……なにが悪いのですか?」
母親は答えを持ち合わせていなかったので、私の質問は米川さんにトス。
「運動が苦手な子供に対して酷いと思いませんか!?」
「リヒト君、はしるのニガテなの?」
「に、苦手なの!」
「ふつうにはしってたのに?」
「遅いって言ったのララちゃんでしょ!」
「わたし、もっとおそい。それなのにニガテなの??」
「なんなのよこの子は!!」
子供の純粋な目と質問攻撃に負けた米川さんは、母親に標的を移した。
「あの……子供相手に大声出さないでもらえないでしょうか?」
「聞き分けないからでしょうが! どんな教育なさってるの!?」
「ララちゃんは聞き分けいいですよ。赤ちゃんの頃からぜんぜん泣きませんし、ワガママだって言ったことありません。そういえば、たいして教えてないのにすぐ正解するわね。教育しがいがないぐらい……」
「そんなこと聞いてないのですわ!」
母親が疑いの目を私に向けたが、米川さんが怒鳴ってくれたので助かった。
「もういいですわ! この件は裁判で決着をつけましょう!!」
米川さんが裁判とか言うので私は焦ったが、母親は笑顔のままだ。
「裁判ですか……民事訴訟ということでいいでしょうか?」
「そうですわ!」
「となると、この場合だと精神的苦痛に関する訴訟となりますが、理人君の通院記録なんかは補完しておられますか?」
「ありませんけど、夫には凄い弁護士がついていますから楽勝ですわ!!」
「つまり、訴状もいまからですか……では、私から先に出してしまいましょう」
「……はい??」
母親は笑顔のまま手をポンっと合わせてから立ち上がり、キッチンの上のほうを指差す。
「あそこにカメラがありましてね。米川さんが言ったララちゃんへの名誉毀損、脅迫の証拠がバッチリ映っています。その証拠があれば、訴状なんてチョチョイのチョイですよ~」
「な……何を言ってますの??」
「私、こう見えてアデーレ法律事務所で弁護士をしていたんです。さらに夫の財力があるんで、何年でもジックリと戦えますよ。旦那様は議員をしていると聞きましたが……この件がマイナスにならないといいですね」
母親は笑顔でウインクしたけど、私はゾッとした。
「ちょ、ちょっとお待ちになって! そういえばこちらにも非があったような……ララちゃん、大きな声を出してごめんなさいね。また、公園で理人ちゃんと遊んでね。そ、それでは夕食の仕度がありますので私はこの辺で……お邪魔しました~~~」
それは米川さんも同じこと。早口で謝って、ダッシュで逃げて行ったのであった……
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