023 幼稚園である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。お兄ちゃんが保育園に馴染んでくれたから、ようやく子育てが終わった気分だ。


 ジュマルが私の手から離れたら、今度は私の番。幼稚園デビューだ。


 両親の議論の結果、一番近い幼稚園に通うことに決まったのだが、ここはなかなかの進学幼稚園。お受験が必要らしい……

 なので、私は母親のスパルタ指導を受けさせられたけど、1日で終了。どんな難しい勉強をするのかと構えていたら、自分のことを言えるだけでよかったのですぐに終わってしまったのだ。


「ママ、住所なんて教えたっけ?」

「ち、ちらない……」


 段ボールに張ってあった送り状で覚えたなんて言えないよ~。


 母親は教え甲斐がないとかブツブツ言っていたけど、これならば自分たちに時間を掛けられると面接の練習に力を入れていた。

 その最終確認に、米川さんを招いて審査員役を頼んでいたけど、こちらも完璧。米川さんの超意地悪な質問にも難なく答えていたので、「私、必要ありまして?」ってぐらい太鼓判を押されていた。


 そんな高スペック夫婦と輪廻転生者ならば、お受験もあっさり合格。それなのに4月の入園式は2人揃って号泣だった。

 帰り際には、先生方から何故か握手を求められていたから何事かと思ったら、米川さんが苦情を入れに来なくなった立役者だってさ。やっぱり幼稚園でも幅を利かせていたんだね。でも、誰が密告したんだろ?



「ひろせララです。よろしくおねがいします」

「みんな拍手~。パチパチパチパチ~」


 新学期が始まると、私も幼稚園は初めて通うので緊張だ。子供たちも保育園に入れたから勝手がわからないので、愛想笑いは絶やさない。

 それに普通は満3歳から通うのだから、1年遅れでは友達の輪に入っていけるか不安だ。


「ララちゃんっていうんだ」

「そのゴムかわいいね~」


 とか思っていたけど、新人さんは珍しいのかあっという間に女子に囲まれたから大丈夫そう。でも、質問があっちこっちから来て大変だ。

 とりあえず全員の質問に答えていたら授業らしきモノが始まったけど、簡単すぎて面白くない。女子に囲まれて疲労困憊だったから寝てしまいそうだ。


 初日から眠るわけにはいかないので頑張って起きていたら、やっとこさお昼休みだ。


「それじゃあ、お弁当の準備しましょう」


 先生の合図で子供が動くので、私は見よう見マネで準備して着席したら、先生が寄って来て「教えてもいないのによくできたね~」と褒められた。てか、教えるの忘れてたでしょ?


「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」


 先生を追及したいところであったが、食事が始まったので私も遅れて手を合わせてからお弁当箱を開けた。


「わっ! ララちゃんのお弁当、イケメ~ン」

「本当。これってララちゃんのパパ??」

「ううん……ヒョ、ヒョンジョン……」


 幼稚園児に、韓流スターの顔のお弁当なんてある!? 確かに推してたけど!! ……これ、私のせいだわ!? アニメなんて見たことないどころか、母親が見せようとした時も断っていたもん!!


「どれどれ~。そっくり! ママが好きなのかな~?」

「わ、わたしです……」

「ララちゃんなんだ……」


 母親に罪を押し付けてやりたかったけど、そんなことしたら自分の趣味を押し付ける毒親とか思われ兼ねないので言えない。先生……その微妙な顔をやめてください。


 私のお弁当はちょっとした話題になってしまったが、食事は始まっていたので皆も食べ出した。その風景を、私はお弁当をお箸でつまみながら観察している。


「それってなんてキャラ?」


 さらに、お隣の女子に質問して情報収集だ。


「これ? プリチュアのトリュフよ。ララちゃんしらないの?」

「ちらない……」

「おっくれてる~。みんな大好きだから見ておいたほうがいいよ」

「うん。あんがと」

「私はね~。だんぜんトリュフが好きなんだよね~。かわいいもん」


 話が終わったと思ったら、女子はそこからが長い。知らないと知っているクセに、イロイロ話を振られるから困ってしまう。お話好きみたいだね。

 ちょっと迷惑に思いながら頑張って聞いていたら、女子は先生に注意されていた。食事がぜんぜん進んでなかったからね。でも、私のせいにしないでよ~。


 女子に濡れ衣を着せられた私は特に反論せずに「親切に教えてくれた」と説明したので、先生はそれ以上のことは言わなかった。

 でも、「お箸上手すぎない?」とか疑われてしまった。母親が教えてくれたと濡れ衣を着せて、ゴメンなさい……



 それからもクラスメートから情報収集し、バスに揺られて帰ったら、バス停に母親が迎えに来てくれていた。


「ララちゃんおかえり。幼稚園どうだった?」

「つかれた……」

「そっかそっか。じゃあ、抱っこしてあげる。みんなにバイバイしようね~」

「バイバ~イ」


 母親に乗って家に帰ると、リビングのソファーでぐで~ん。そんな私に、母親はおやつとジュースを持って来てくれた。


「あはは。ララちゃんお疲れね~。がんばったがんばった。はい、ジュース」

「あい。プハ~」


 この一杯のために生きているって感じでジュースを飲むと、母親はリモコンを持ってテレビに向けた。


「ララちゃんより先に見るのは悪いと思って、ママもドラマ我慢してたんだよ~? 一緒に見ようね~」

「わたし、プリチュアみたい……」

「へ?? ララちゃんがアニメ見たいなんて……あっ!?」


 私の意外な返しに、母親は勢いよく立ち上がった。


「朝からずっとモヤモヤしてたのよ! そうよ! キャラ弁よ! なんで私はヒョンジョンなんて書いてたの~~~!!」


 どうやら母親も韓流スターは心の中では変だと思っていたけど、私が好きだからそのアラートに気付かずに作っていたっぽい。


「イジメられなかった? ララちゃんゴメ~~~ン」

「だいじょぶ。あしたからたのみます」

「はいっ! とりあえず、プリチュアを一緒に勉強するわよ!!」

「あいっ!」


 こうして私たちは、魔法少女プリチュアのアニメを見続けるのであった……



 その夜……


「2人して、なんで鬼気迫る感じでアニメ見てるんだ?」


 仕事から帰って来た父親が私たちを不思議がっていた。


「ララちゃんに必要だったのは、幼児教育じゃなかったの。幼児らしさの教育だったの!」

「確かに! 僕も勉強するよ!!」


 でも、母親の説明にすぐに納得して、同じように鬼気迫る感じでアニメを見る父親であったとさ。

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