017 お呼ばれである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。幼児教育はジュマルにも私にも難しい。
挑発することで勉強に取り組む姿勢を見せ出したジュマルであったが、集中力が続かないのか10分ぐらいでどっかに行ってしまう。私は私で、問題が簡単すぎて幼児っぽく振る舞うのも限界に近い。
それでも四苦八苦しながら日々を過ごしていたら、ママ友スリーの木原さんからお誘いがあった。母親はすっごく嬉しそうだったけど、その日が近付くにつれて胃腸薬の量が増えている。
「ジュマ君が何かやらかさないかしら……本当に連れて行っていいの??」
こんな自問自答をしてるから……まぁ、気持ちはわかる。必ず何かやらかすと私も思っているから気が気でないもん。
「ママ、おくすりちょうだい」
「これ? これは大人用だから……え? 胃腸薬なんてなんでほしがってるの!?」
「じょ、じょうだん」
お腹がキリキリ痛いから胃腸薬の出番だからだ。でも、気のせいだと思うし、母親が疑っているから我慢するしかない。
「なんだって!? 救急車~~~!!」
「車! 車で行ったほうが速いよ!!」
だがしかし、両親は超心配して私は市民病院に緊急搬送。気のせいではなく、ちょっと便秘気味だったらしい……そういえば最近、豪華な物ばかり食べてたな~。
食生活を少し気を付けるようにと言われただけで、家に帰る私たちであった。
ついにお呼ばれの日になると、家族揃って車でとあるマンションへとやって来た。車は近所のコインパーキングに止めたけど、スタイリッシュすぎて盗まれないか心配だ。
ちなみにジュマルは動物園スタイル。父親の体に縛り付けられているから、誰にも迷惑にならないはずだ。
そしてエレベーターに乗って木原さんの家の前に立つと、ピンポン。木原さんが出迎えてくれた。
「広瀬さん。いらっしゃい」
「本日はお招きありがとうございます」
「あはは。そんなのいいですよ。それにその大きな段ボール、
「いえ、これはジュマル用に……」
「あ……入って入って! 狭いところだけど気にしないでくださいね~」
木原さん、勘違い。そりゃ誕生日に段ボール箱を抱えていたら、プレゼントだと思うよね~。
そのことに気付いた木原さんは照れ笑いして、私たちを中に押し込んだ。
木原家は、うちと比べるとかなり質素に見えるけど、これは普通の一般家庭の広さ。リビングもうちの寝室ぐらいしかないけど、物が少ないから広く見える。
「あの……ひょっとしてジュマルのために片付けてくれたのですか?」
「違うと言いたいけど、物を壊されたらたまったもんじゃないですからね」
「す、すみません……」
「冗談、冗談よ。子供が集まるから綺麗にしただけ。だから、あっちの部屋は開けないでくださいね? すっごいから……」
「は、はい……」
たぶんジュマル対策が本当の理由だと思うけど、木原さん、めっちゃいい人。でも、開かずの引き戸は開けてはならない。目が怖かったもん!
とりあえずどこに座るかを聞いて、その後ろに段ボール箱を設置。ジュマルの拘束を解いたら飛び込んだ。
「あはは。緊張してるのかな?」
「おそらく……私もです」
「広瀬さんまで? じゃあ、ちょっと手伝って緊張ほぐそっか。旦那さんはゆっくり……いや、めっちゃイケメンやな!?」
「よく言われます~。木原さん、準備があるんでしょ~?」
ここで初めて木原さんは父親にロックオン。イケメンに驚きすぎて関西弁が表に出た。
公園でも会っているのにいま気付いたということは、ジュマルのマイナスが大き過ぎたのだろう。もしくは、いつも必死の形相か疲労困憊の顔だったから気付けなかったとか?
そんな木原さんの背中を押してキッチンで作業が始まり、ママ友スリーの残りのふた家族が揃うと、誕生日パーティーの始まりだ。
「「「「「ハッピーバースデーヒロトく~ん♪」」」」」
誕生日の歌やローソク消灯、プレゼントの開封。至って普通の誕生日パーティーは滞りなく進むと、しばしご歓談。子供たちで集まり、両親は男女に分かれて喋っている。
ただし、ママ友スリーは私の父親にメロメロ。だからパパさん方は父親をいびっているように見える。頑張れお父さん。
そんな中、私はジュマルのお世話。ケーキとお手拭きを段ボール箱の中に入れていた。
「ララちゃん。なにしてんの?」
すると、ジュマルと同い年の女子2人、
「おにちゃにケーキあげてた」
「お兄ちゃん? なんでそんなとこにはいってるの??」
「これには深い事情がありまして……」
「え~。なにいってるかわかんな~い。その服かわいいね」
私もその変化球について行けないよ!
2人は私の服の話に変わったり、髪型やリボンがどうのこうのと話がコロコロ変わるので頑張って聞いてあげる。ちなみに主役の大翔君は、うちの父親があげたかっこいいロボットで夢中に遊んでいるから、
でも、ちょっとかわいそうだからあっちに行こうかと思っていたら、結菜ちゃんたちの話が戻った。
「ララちゃんのお兄ちゃん、みたいな~」
「おにちゃ、あぶない。やめたほうがいい」
「え~。いいじゃな~い。みたいみた~い」
大翔君も厄介だったけど、幼女も面倒くさい。私が止めているのに聞きゃしないよ。勝手に開けようとするし……
「わたしがあける。だからしずかにして。いい?」
「「うん。いいよ~」」
返事はいいけど、2人はぺちゃくちゃ喋ってやがる。しかしジュマルを見せないことには、いきなり開けて怪我しかねないのでやるしかない。
私は何度も「待て」と言い、ゆっくりと段ボール箱を開けてジュースを手渡した。
「「わっ! カッコイイ!!」」
「にゃ??」
「「にゃっていった~」」
「ここまで! しめるからね」
「「えぇ~~~」」
開けたら開けたで、かしましい幼女2人であったとさ。
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