015 段ボール箱 in ジュマルである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。隠し撮りしてたなら私にも言ってよね~。


 広瀬家を心配して、児童相談所のほうからやって来たと言っていた竹田さんは、ジュマルの暴れ狂う映像を見て早くもお手上げ。幼稚園や保育園に入れられない理由に納得してくれた。


「この映像なんですが……生まれて間もないララさんと一緒に韓流ドラマ見てません?」

「ええ。なんだか好きみたいなので……」

「それもありまへんわ~」


 でも、赤ちゃんが韓流ドラマを見ていることは納得してくれない。どこが好きかと聞かれても、困ってしまう。疑ってるんだもの。


「お、おうじさまみたい……」

「わかってるぅぅ~」

「ですよね~?」


 しかし、私は正解を引き当てたみたい。竹田さんも母親も、韓流スターが好きみたいで話が弾んでいるもん。ちなみに私は、昼ドラみたいなドロドロした展開が好きなんだけどね。



 しばらく韓流ドラマの話が続いていたが、竹田さんは仕事を思い出しちゃった。


「ところでララさんはどうして幼稚園に入れないのですか?」

「そ、それは……」

「やはり何か問題が……」

「違います! けど、違うこともないんです!!」

「どういうことですか??」


 私のことになると、母親もしどろもどろ。だってジュマルを操るために入園できないんだもん。後ろめたさ爆発だ。


「ララさんがいると、ジュマルさんが落ち着いてくれると……」

「そうなんです。不甲斐ない母親で申し訳ありません……」

「ララさんはしっかりしているように見えますけど、ララさんはどうしたいのですか?」


 私に聞かれても、3歳児だよ? それに母親が涙目で見てるし……


「わたしはママとドラマみたい」

「それはそれでどうかと……」


 この答えじゃダメか~……うん。わかってた。


「おにちゃのあいて、たいへん。ママだけじゃしんぱい」

「ララ~~~」

「いや、広瀬さん。これって子供に馬鹿にされているのでは?」


 確かに母親を下に見ている発言だが、外にいる人にはその苦労が計り知れるわけがない。マジでジュマルの相手は大変なんだからね!

 というわけで、実地研修。竹田さんにもジュマルの厄介さを体験してもらうことになった。


「あの段ボール箱の中にいるのですね?」

「「はあ……」」

「どうして広瀬さんはスマホを構えているのですか?」

「怪我をされた場合は、竹田さんの自己責任ってことにしてもらいたいので……私は止めましたよね?」

「止められていません! いまおっしゃいましたよね!?」

「はあ……いま言いましたけど、段ボール箱を開けるぐらいなんてことはないと竹田さんがおっしゃっていましたし……」

「そんなこと言われたら怖いじゃないですか!?」


 母親、さすがは弁護士をやっていただけある。最低限の準備は怠らないな……


 しかし、子供の顔の確認をすることは、児童相談所の立派なお仕事。竹田さんは恐る恐るジュマルが入っている段ボール箱に手を伸ばした。


 ガサガサガサガサ!?


「何か動いてますよ!!」

「はあ……息子ですけど……」

「うぅぅ~~~……」

「唸ってます! 唸ってますよ!?」

「はあ……他人が苦手なので……」


 でも、ジュマルが興奮しているので、竹田さんは手を出せなくなっている。なので、私の出番だ。


「ララちゃん。いける?」

「あい。おにちゃ。待て! ……たぶんこれであけてもだいじょぶ」

「「でも、自己責任で……」」

「ララさんまで怖いこと言わないで!?」


 でもでも、私の能力もそこまでの力はないから自信なし。竹田さんも、何かあった場合に備えて構えながら段ボール箱を開けた。


「フシャーーー!!」

「あぶな!?」


 やっぱり無理だった。ジュマルは竹田さんの手を引っ掻こうとしだけど、ギリギリセーフ。そして段ボール箱から飛び出て、リビングを走り回ってから別の段ボール箱に隠れたのであった。



「猫ですね……」

「「はあ……」」


 ジュマルを見た竹田さんの感想はこんなもん。私たちも同意見だ。


「念のため聞きますけど、暴力なんかは……」

「私たちは特には。夫は引っ掻かれることが多いから生傷は絶えないですけど。写真見ますか?」

「私が言いたいのは、ジュマルさんが暴力を振るわれているかどうかだったのですけど……なさそうですね」

「そ、それは当たり前です!」

「すみません! 失礼なことを言いました!!」


 竹田さん、ジュマルの脅威を知って残念なミス。まぁ母親も勘違いしていたから、両成敗となった。


「あの……ジュマルは幼稚園や保育園は最悪諦めているのですけど、このまま小学生になってもいいのでしょうか? 何かいい方法があったら教えてほしいのですけど……」


 児童相談所の人がせっかく目の前にいるのだから、母親もわらにもすがる思いで質問している。


「そうですね……小学校なら個別教室って方法もありますけど、それまでに授業を受けられるようにしていただけたらと思います」

「それができたら相談しませんよ~」

「こんなケース初めてなので、後日、資料を郵送するってことで……」

「それは何もしないと言っているだけなのでは?」

「そうだんじょ、やくたたず……」

「違うんです! 検討の余地があるんですって!!」


 こうして私と母親に冷たい目を向けられた竹田さんは「検討する」と連呼して逃げ帰るのであった……


「ララちゃん。アレがお役所のやり口よ。覚えておきなさい」

「あい……でも、ママこわい」


 何やら公務員に対して不満がある母親であったとさ。

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