014 訪問者である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。制服着たかったな~。
私の幼稚園デビューは両親が本当に泣く泣く諦めることになり、私も制服は着たかったのでポツリと呟いたら、ネットショッピングで山ほど買って来た。
「ララちゃん、かわいいよ~」
「天使……いや、もう神!!」
というわけで、ファッションショーが始まったけど、多すぎ。確かに着たいとは言ったけど、着替えはしんどい。2日目は「あきた」とか言って辞退した。
だって、あの量だと3日目も突入するもん! 金持ちとネットショッピング、恐るべし……
「第11回、広瀬家、家族会議を開催します……」
「パチパチパチパチ……」
とか思っていたら、また家族会議が始まって私も参加させられている。
「やっぱりこのままだとダメだよな……」
「そうね。集団行動もさせていかないと……」
父親も母親も暗い顔をしているということは、私のファッションショーは現実逃避をしていただけっぽい。友達なんて、ママ友スリーの子供しかいないし、ジュマルに至っては段ボール箱から出て来ないのだからいないに等しいもん。
「アレなんてどうかな? ボーイスカウト」
「なるほど……それならララちゃんも一緒に参加できるかも?」
なので、凄いことを言い出した!
「おにちゃ。かえってこれない……」
「「あ……」」
ジュマルに森なんて見せたら、絶対ダメ! 猫が解放されて、サバイバル生活に突入するはずだ。元猫だと知らなくても、両親にもその未来が見えたと思うけど、どうしてノートパソコンで調べてる? 森に帰す気か??
「あ、ボーイスカウトって、小学生からだって」
「それじゃあダメだね。いい案だと思ったのにね~」
詳しく調べていただけみたい。私もこの歳で森なんて行きたくないから助かった。
「インターナショナルスクールはどう? 日本の学校より、ジュマルに向いてそうじゃない?」
「ちょっと待って。調べる」
母親の案は、私も気になる。元夫も猫のクセに英語を喋れるようになっていたから、インターナショナルスクールに通えば私もペラペラになるかも? 負けてられないからね。
「ダメだ。3歳までだって。それに9月入学だから遅かった……」
「うそ~ん。あ、親も英語必須なんだ……パパはいいけど、私が送り迎えしないといけないなら自信ないな~」
「ママもちょっとは喋れるだろ?」
「もう何年も喋ってないから無理よ~」
どちらも英語が喋れるって、この両親はハイスペックすぎる。これは、将来的に比べられる運命なのでは? 私のほうが無理!!
そんなことを考えていたら、インターナショナルスクールも却下。理由は、ジュマルと私を引き離しては事件が起こるらしい……だよね~。
「このままじゃあ、2人とも集団行動なしに小学生になってしまう……」
結局のところ、ジュマルを預ける場所がなくて私まで巻き添え。まぁ私はなんとでもなるけど、ジュマルは不安だ。
「ひとまず私が勉強を見るしかないわね」
「それでいいのか? 6歳まで自由がなくなるんだぞ??」
「それは最悪のケースでしょ? 来年にはジュマルだって落ち着いているはずだから、再来年には……」
「再来年だと、ジュマルは5歳だけど……」
「もう諦めよっか……」
そこで諦められると、私も連帯責任になると思うんだけどな~? さらに、小学校はどうなるのって問題もある。1年だけの飛び級なんてシステムないよ~。
「やるだけやってみよう」
「それしかないな」
「「がんばろう! ね? ララちゃん!!」」
「……がんばる」
私は何を頑張ればいいのかわからないまま、家族会議は終わるのであった……
それから月日は流れ、ジュマルが4歳、私が3歳となり、5月をすぎた頃にスーツ姿の女性が広瀬家を訪ねて来た。
「どちらのお子さんも、幼稚園や保育園に入れていないのはどういうことでしょうか?」
この女性は、児童相談所のほうからやって来たと言ってた竹田さん。メガネが光って妙に迫力があるので、母親もたじたじになっている。
「い、一身上の都合と言いますか……」
「何も
「ち、違うんです~~~」
そりゃ、ジュマルに縄を掛けてハイハイで散歩させていたら、通報されるわな。今まで来なかったほうが不思議だよ。
あ、そこまで目撃情報がなかったからですか。違う地区ではけっこうあったって……うちって、いつもどこの公園に行ってたんだろ?
「というわけでしてね。ジュマルを外に出すと何をするかわからなくて……」
「なるほど……しかし、大人が押さえ付けられないほどなんてことあるのですか?」
「あるんです! ちょっと待ってくださいね!!」
母親はリビングから出て行くと、タブレットを持って来て何かの映像を流した。
「す、すご……」
「ママ。わたしもみたい」
「ララちゃんも? じゃあ、あっち行こっか」
竹田さんの隣にキッズチェアを移動してもらったら、私もタブレットに見入る。
そこには、荒れ狂うジュマルの姿。キッチン辺りにカメラが設置されているらしく、リビングを走り回り飛び跳ねまくるジュマルや、必死に追い回す両親の姿がバッチリ映っていた。
「それがハイハイを覚えた生後5ヶ月ぐらいですね。次が8ヶ月かな?」
「「はい??」」
竹田さんと私は声が重なってしまっているけど、母親は次々と新しい動画を流し、最近の二足歩行で走るだけでなく壁まで走っているジュマルが消えたところで上映会は終了となった。
「はぁ~~~……」
動画を見終わった竹田さんはメガネを外し、目頭を押さえて長いため息を吐いた。私と母親は、どんな感想を言うか固唾を飲んで見守っている。
「こりゃあきまへんわ」
竹田さんの感想は、関西弁になっただけ。でも、それだけで、私と母親は勝った気分になって握手をしたのであったとさ。
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複数投稿はここまでです。
しばらくは毎日1話、18時前後に更新しますが、いつまで続くか微妙です……
一ヶ月は頑張るぞ~!って気持ちを持っていたいと思います!!
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