013 第10回家族会議である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。私も猫と喋ってみたい。
ジュマルが猫と喋れることを知った私は、チャンスがあれば何を言っているのかと質問してみたら、だいたいエサを寄越せと言われてた。中には「ワシャワシャさせてやろう」とか、上から目線の猫がいたので嫌いになりそうだ。
と、これは実験。ジュマルが本当に喋れるか確認していたのだ。それがわかったところでどうしようもないが、ジュマルが猫と結婚するとか言い出したらたまったもんじゃない。猫をお姉さんなんて呼べないよ!
いやいや、ただでさえジュマルは近所の人から変な風に見られているんだから、これ以上の要素は排除したい。ジュマルには猫と喋れることは誰にも言うなと身振り手振りで頑張って伝え、猫からも遠ざける私であった。
秋……
「第10回、広瀬家、家族会議を始めます」
「パチパチパチパチ~」
いつも通り、父親が宣言して母親が拍手をして家族会議が始まる。出席者もいつも通り、両親と私だけ。ジュマルはソファーで、ひっくり返った無防備な姿で寝てる。
ちなみに3回目から7回も飛んでいる理由は、たまにやっていたから。議題もなんのことはない。お出掛けにジュマルを連れて行って大丈夫かどうかを話し合うだけだ。
「ついに、この日が来た……」
だが、今日は空気が重い。母親もさっきまでふざけていたのに、顔が強張っている。私は空気を読んでどこかに行きたいけど、ベビーチェアに乗せられているから1人で下りられない。逃げないように拘束されているとも言う。
「幼稚園のパンフレット貰って来たけど、どうしようか??」
「どうしたらいいんだろう??」
2人が緊張していた理由は、ジュマルの進学。悩みに悩んでああだこうだ言ってる。
「最近って、かなり落ち着いて来たよな?」
「ええ。外でも中でも走り回ることは少なくなったけど……」
「
「他の子にもやりかねないよね~……」
父親と母親は話し合いながら私をチラチラ見て来るってことは、何かしらの意見を出してほしいのだろうけど、これは両親が考えることだから何も言わない。
それにもう答えが出ているはずだ。
「先送り……」
「だね……」
あんな事件を起こしたのだから、もう1年様子を見るのが妥当だろう。私も賛成だからウンウン頷いてしまったので、「全会一致」とか言われてジュマルの進学は先送りになるのであった。
「続きまして……」
ジュマルの件で家族会議は終わると思っていたが、まだ議題が続くらしい。
「ララは幼稚園と保育園、どっちにする?」
そう。来年には私も満3歳。そのことを忘れていて少しビックリしたが、生まれ変わってもう3年目になるのかと感慨深く頷いている。
「ララちゃんはこれだけ賢いんだから、幼稚園がいいんじゃない?」
「そうだな。あとはどこの幼稚園に預けるかだな」
「かわいい制服のところにしようよ~。ここなんてかわいくな~い?」
「待て待て。そんな遠いところ通えるのか?」
久し振りの明るい話題なのか、2人とも話が弾んでいる。なんなら、私にパンフレットを見せて決めさせようとしていた。
ひとまず言われた通りパンフレットを熟読していたら、2人は微笑ましく私を見ている。文字を読んでいるとは思われていないみたい。
「これでママの負担も少しは減るな」
「ええ。2人も育てるって大変よね~」
「「……え??」」
だが、雲行きが変わった。
「ララちゃんが生まれてからのほうが楽かも……」
「確かに……手間が掛からないし、ジュマルを押さえてくれる」
そう。この家で猛獣使いは私しかいないからだ。
「ララちゃんがいないなんて信じられない!?」
「で、でも、幼稚園はどうするんだ??」
「かわいい制服も着せたい~~~」
なので、母親が錯乱。ジュマルと2人きりは嫌だけど、私の制服姿は見たい模様。いやいや、幼稚園に通わせたいんだよね? そう言って!
「僕が主夫するから、幼稚園行かせよう!」
そして父親まで錯乱。仕事する側をタッチ交代してジュマルを見るようなことを言ってるけど、この家ってローンは大丈夫??
「ダ、ダメよ。こんな高いローン、私じゃ払えないわ」
「でも、それじゃあママばかりに負担が……子育てが大変だからって、育休も取り消して仕事だって辞めることになったじゃないか」
「だからなおさらなの。これだけブランクがあったら、もう第一線の企業法務に戻ることもできない。それじゃあ、手取りなんて雀の涙よ」
「会社を売れば、なんとかなるって」
「それこそ本末転倒よ」
大丈夫といえば大丈夫だけど、なんだか見てられない。私の時なんて、私が1人で育てる一択よ! ジュマルはたぶん、元夫にぶん殴ってもらうと思うけど……
夫婦愛というか、現代の共働き世帯はいいなというか、このハイスペック夫婦は羨ましいなとか様々な思いを持って見ていたら、ついに結論が出た。
「ララちゃん……」
「ララ……」
「「ゴメ~~~ン!!」」
まぁ、そうなるよね……
こうしてジュマルのせいで、私の幼稚園デビューも先送りにされるのであったとさ。
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