009 招待客である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。完璧に猛獣使いだ。


 公園で私がジュマルと手を繋いで歩いただけで、ママさん方から拍手喝采。その後は、子供そっちのけで両親と握手やハグをしてる。

 そしてよくわからないけど、私たちは胴上げされ、関係ない子供たちも打ち上がった……マジでなんで? まぁ親が楽しそうにしているのだから、子供がせがむのは当たり前か。


 そんなことをしていたら、私の足が限界。父親にジュマルを任せて、私はベビーカーでジュースを飲みながら一服だ。


(はぁ~……疲れた。お兄ちゃんのことはある程度解決したけど、課題は私の体力よね。お父さん、頑張れ~)


 公園内はいつものジュマル爆走、リードを持つ父親が引っ張られる光景に戻っているが、心なしか温かい雰囲気に包まれていたのであった……



 それからというもの、公園に行く頻度が増えて母親もママ友との仲が進展していた。私も友達というには意思の疎通ができない友達と仲いい振りをしてごまかしていたら、週の中頃に母親がそわそわしていた。


「あ~。大丈夫かな~? この服でいいかな~? 段ボール箱も大丈夫よね……」


 どうやらママ友をご招待したらしく、昨日からそわそわしっぱなしだ。ちなみに私もおめかしさせられたのだが、昨日、母親に前髪を切られすぎてご機嫌斜めで姿鏡を見ている。


(子供はお母さんの好みを押し付けられがちだからって、このパッツン前髪はアリなの? いや……幼女がしたら、めっちゃかわいいな。てか、私かわいい! 何このお人形さんみたいな女の子!?)


 でも、自分がかわいすぎてうっとり。鏡の前で何度もポーズ決めちゃった。母親もめっちゃ写真撮ってくれた。


 そんなことをしていたら、チャイムが鳴って母親とジュマルが飛び跳ねた。お母さん、ジュマルに似て来たな……

 ひとまず母親と私で玄関までお出迎え。ママ友スリーとその子供を招き入れると、テンパっている母親の代わりに私がペコリと挨拶する。


「いらっちゃいませ~」

「「「……はうっ!?」」」


 ママ友スリーの反応は、銃で胸を貫かれたような感じ。同時に胸を押さえて片膝を突いた。どうよ、私の小悪魔っぷり!!

 ちょっと愛想を振りまいてリビングに移動したら「ガサガサーッ!」と音が鳴ったので、ママ友スリーも口をあんぐり開けてる。


「いまのジュマ君ですのよ~。その辺のお段ボール箱に入ってますのですわよ~」

「ママ、へん」

「へ、変!?」


 口調のおかしくなっている母親に注意してみたら、ショックで元に戻った。


「どうかしましたか? な、なにか、私やらかしたとか……あわわわわ」


 けど、ママ友スリーの反応に意味がわからなくて取り乱しちゃった。


「き、気にしないで。山側に住んでいると聞いていたけど、こんなに立派な家に住んでるなんて思っていなかっただけなの。凄いわね~」

「立派だなんて……いえ、私なんかには立派すぎますよね。すみません……」


 木原さんの説明でママ友スリーの驚きの理由はわかった母親だが、なんだかネガティブになっていたので私がしっかりするしかない。


「ママ、ちゃちゃ」

「あっ! 私ったらお客様を立たせたままだなんて。こちらにお座りください」


 ひとまず私のツッコミで母親は超立派なリビングに案内してソファーや床に座る面々。ジュマルは……全体の位置が見渡せる段ボール箱に入って覗き穴から見てると思われる。

 そこにカタカタとお盆を揺らす母親が戻って来て、全員の前に紅茶やジュースが並んだ。


「ティーカップじゃないんだ……」

「は、はい。割れる物は置いておけなくて……」

「あ、ジュマル君のためね。家でもあの調子じゃ危険だもんね」

「そうなんですよ。プラスチックなら割れないから助かっています。陶器だったら、今ごろ百個ぐらいは割って破産してますよ~」

「フフフ。家には驚いたけど、けっこう庶民的なんですね」

「はい! ド庶民です! ジュマ君にティファニーのティーセットを割られた時は、発狂しましたもん!!」


 話が弾みかけたけど、ド庶民はティファニーで買い物なんてしないので、ママ友スリーはまた遠い目。


「ママ、ざんねん」

「ざん……違います違います! 引き出物で貰った物なんです~~~!」


 なので私が肩をポンッと叩いてあげたら、母親は金持ち自慢をしたと気付いて焦るのであったとさ。



 ママ友スリーが何やらコソコソ話し出したので、母親も居心地が悪くなったのか、子供たちと仲良く遊ぶ。たぶん、現実逃避しているのだと思われる。

 仕方がないから私も付き合ってあげていたら、木原さんのほうから話し掛けて来た。なので、私は子供を押し付けられた。


「旦那さんは何をしている方なの?」

「夫は……スマホとかのゲームを作ってる会社の社長なんです。すいません……」

「へ~。社長さんなんだ。だからこんな家に住めるのね」

「私は広すぎるって言ったんですけど、聞いてくれなくて」


 子供を適当にあしらいながら聞き耳を立てていたら、父親の仕事を知ることに。どうやら父親は、学生時代にベンチャーのゲーム会社を立ち上げ、外国向けのゲームを作っているらしい。

 そのゲームがけっこう売れていて、販売先が英語圏の外国ということもあり、日本で商売するより5倍もの利益を上げているそうだ。


「へ~。ということは、広瀬さんはその会社で働いていて、ハートを射止めたとかかな?」


 ちょっと難しい話だったから、木原さんたちは下世話な話にシフトチェンジ。なんか合コンとか社長専用の秘密クラブとか出てるけど、子供の前でなんの話してんの?


「いや、働いていたが近いですね」

「近いって??」

「私、アドーレ法律事務所で働いていて、夫の会社の顧問弁護士をしていたんですよ」

「はい?? アドーレって、あの大手の法律事務所の??」

「はい。特許関連で顔を合わせしているうちに、そんな関係になっちゃって……キャー! 私、なに言ってんだろ」


 母親が照れまくってなんか言ってるけど、ママ友スリーは誰も聞いていない。なので私はおもむろに立ち上がり、また母親の肩を叩いた。


「やっぱ、ざんねん」

「ざっ……大丈夫ですか~~~!?」


 ママ友スリーは、母親の高学歴を聞いて撃沈。3人とも仰向けに倒れたのであったとさ。

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