008 猛獣使いである
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。もしかしたら猛獣使いだったのかも……
動物園の駐車場でジュマルが逃走した事件は、私のおかげで無事解決。両親は周りで見ていた人から心配されたり叱られたりしていたので、何度も謝っていた。
その疲れが出たのか、帰りの車内は静かなモノ。私も長い時間起きていたので、残りの時間はほとんど眠っていた……
「てか、私の体に何かしたでしょ!?」
その夢の中では、私は神様に会うなり怒鳴り付けていた。
「なんのことですか~? 神様、よくわからない」
「お兄ちゃんのことよ! なんで私が命令したら、すぐにきくか教えて!!」
「あ、そのことですか。神様、うっかり。てへ」
てへぺろしてる神様にちょっとイラッと来たが、どうやら転生サービスというか、念の為ジュマルを操れるように私たちの魂を少しイジッていたらしい……
「そんな大事なこと、ちゃんと言っておいてよね~」
「喋れるまでは使えないので、その頃に説明しようと思っていたのですよ」
「だから忘れていたと……」
「いえ。説明しようとしたその日に『待て』と言ってジュマルさんを止めていたから、説明したと思い込んでいましてね」
「そんなことな……あったわ! 私の第一声!?」
確かに「ママ」と言おうとした時に、ジュマルが私の顔を舐めようとしたから「待て」と言ってジュマルが止まった不思議体験は記憶にあるけど、神様だったらそのことに気付いてもよくない?
「アマちゃんって……」
「そうそう! あの猫さん、また面白いことになってるんですよ~。いま、お城で暮らしてるんですよ?」
「なにその話!? ちょっと見ない間に急展開すぎない!?」
「一緒に見ましょう」
全知全能なのだからとそこを突っ込もうとしたら、神様に話を逸らされて白猫の映像をゲラゲラ笑いながら見てしまう私であった。
「てか、話を逸らしたってことは、全部わかってたんでしょ~~~!」
目が覚めてからそのことを思い出したけど、しばらく神様とは連絡が取れなくなる私であったとさ。
動物園に行った次の日……
「第3回、広瀬家、家族会議を開催します!」
「パチパチパチパチ~」
なんかダイニングで、父親がそんなことを言って母親が拍手してる。ちなみに出席者はその2人と、ベビーチェアに乗せられた私……わたし!?
よくよく考えてみたらこの家族会議、1回目は幼稚園の話。2回目は進学関連。その2回とも、私も参加してたよ! てか、その2回は1日の出来事だから、2回目の間違いなのでは? ちなみにジュマルは走り回ってる。
「今回の議題は、ララで~す」
「パチパチパチパチ~」
そして、ザックリした議題……え? わたし!?
「昨日のアレは、なんだったのかな~?」
「ママも教えてほしいな~?」
そりゃ、猛獣をこんなかわいらしい2歳児が操ったのだ。気になるに決まってる。でも、神様の力なんて言えるわけないでしょ!
「わ、わかんにゃい……」
ここは、とぼけるのが吉だ。
「わかんにゃいか~。それは質問のことかな~? それとも、とぼけているのかな~??」
しかし、父親は確信して顔を近付けて来るからちょっと怖い。ここはギャン泣きするところか?
「もう、あなた。ララちゃんが怖がってるでしょ。それに、とぼけるなんてこんなに小さい子ができるわけないじゃない」
「それもそうか。あははは」
母親が助け船を出してくれたから疑いは晴れたみたいだけど、2人はやりたいことがあるみたいだ。
「ララちゃんにはやってもらいたいことがあるの。いいかな?」
「やって……??」
「そう。ジュマ君に『待て』って言ってほしいの」
「まて……」
「そうそう。あっちでね」
私を使った人体実験だ。それは私もやりたかったことだが、できれば2人の見てないところで試したかったな~。
そんなことを思っていても、母親が私を抱いてリビングに連れて行くので逃げることもできない。私は猛獣の檻に放り込まれ……ジュマルが走り回るリビングに下ろされた。
「おにちゃ……待て!」
「「おお~~~」」
そこで「待て」と言ってみたら、ジュマルは急停止。
「お座り!」
「あいっ!」
「「おお~~~」」
ついでに「お座り」と続けると、その場に座ったからには両親は感動が止まらないみたいだ。
「すごいすご~い!!」
「ララは広瀬家の救世主だ~~~!!」
父親の救世主発言に「そんなたいそうな」とも思ったけど、あながち間違いではない。
(そりゃそうよね。私は神様から頼まれてるんだから……でも、スケールのちっさな救世主だな)
何度も両親からジュマルに命令するように言われながら、私は少し納得がいかない今日この頃であった……
「「フフン♪」」
今日は久し振りの公園。公園に入る前に、両親はドヤ顔してるよ。
「さあ、猛獣を解き放つぞ?」
「ララちゃんお願いね~?」
「……あい」
父親はもう、ジュマルを猛獣と言っちゃってる。母親も私頼りだ。まだ2歳児だよ~?
しかし、リード無しのジュマルは猛獣その物。ベビーカーの拘束を解かれるのを、母親の隣に立つ私は集中して見ているしかない。
「にゃ~~~!」
「待て!」
その瞬間ジュマルは飛び出したので、すかさず私の命令。急停止してくれた。
「おにちゃ。てて」
「あい」
そして手を握らせると、ゆっくりと先を歩かせる。
「ジュマルが走らない……」
「ダバ~~~」
その光景に、2人とも涙。でも、お母さんは泣きすぎだから!
「待てよ~? 待てだからね~? あっちいって」
「あい」
大号泣する母親を父親が涙ながら抱き締めている間も、私たちは公園を歩く。その姿に公園にいるママさん方は、何故か無言でスタンディングオベーションを送るのであった……
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