第2話

「これが噂の……」


 ミスティアは手の平にすっぽりと納まるクリスマスローズのブローチをまじまじと見つめた。


 真紅の花弁の中心にはキラキラと光る石が付いている。

 他の女子生徒のものと比べてみると花の中心にある石の色だけが違うらしい。


 ミスティアの手元にあるブローチの石は無色だが、光にかざすと眩いくらいキラキラしていた。


『当日、学院側から女子生徒だけに配られるクリスマスローズのブローチがあるの。女子は全員それを胸につけてクリスマスパーティに参加するのよ』


 昨日、準備の最中にクラスメイトが興奮気味に説明してくれた。

 そしてその話にはまだ続きがある。


『男子は意中の女子にそのブローチを求めることができるの。求めに応じるかどうかはその女子次第。そしてブローチをつけてない女子には相手がいるとみなされてラストダンスにはブローチを贈った男子意外とは踊れない。ブローチを手にできた男子はその女子と実質恋人関係になれるってわけ』


 昨日聞かされた話を思い出し、ミスティアは周りを見渡す。


 女子生徒は誰かに好意をしめされたいし、男子生徒も意中の誰かにどうやって声をかけるか考えているのか、どこかそわそわしている。


 学校中というのは大袈裟だが、お年頃の高等部生の多くは色めき立っている。


『あ、好きでもない男子にはあげちゃ駄目よ。変な勘違いされても困るから』


 親切にも釘を刺してくれたクラスメイトに感謝しなくてはならない。

 この話を知らなければミスティは『そんなに欲しいなら』と躊躇うことなく欲しい人にあげてしまっていただろう。


『でもね、ブローチじゃなくてもっと別の物を交換する人達もいるわ』


 ミスティアはクラスメイトから聞かされたもう一つの話を思い出す。


『それを交換したがるのは相手の心を縛りたい、繋ぎ留めたいっていう欲望の現れなんだって。聖夜にそれを交換すると相手と深く繋がり、結びつきは一生切れないっていうジンクスがあるの』


 悪戯っぽく、声を潜めて語るクラスメイトはどこか色っぽかった。


 そしてそれは一体何なのか、ミスティアは肝心な部分を慌ただしさから聞き逃してしまったのだが。


「何を交換するのかしら」


 自分で考えてもさっぱり思い浮かばない。


「重いわよね……」


 一生切れない結びつきって何だ?

 束縛か?


 一生を相手に縛られるなんて御免だ。

 しかしそれでも構わないと思える相手とその『何か』を交換するのだろう。


 ミスティアの脳裏に一瞬、眩い笑顔を向ける彼の姿が思い浮かぶが、頭を振ってその姿を掻き消す。


「ないわ。一生なんて御免よ。それに……」



 求められなければブローチもその『何か』を贈ることも交換することもないのだから。


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