第30話


「イチロウ君ナイス」


タクヤが親指を立てながら楽しそうに追い打ちをかけ、オサムの顔がどんどん俯いていく。

そこを、まぁまぁとヒロが声をかける。


「そういう事もありますよ、こちらも人間なんですから。

ただでさえ男女で話すんです、そういう事が起きない方が無理というものですよ?

あ、私はありませんでしたが」


「ヒロ様は父親的立ち位置としてお願いすることが多かったですしね」


「いや、年齢は関係無いよ。

たまたまヒロさんと合う女性がいなかっただけでしょう?」


セイヤのフォローをリュウが意見した。


「そうですね、確かに年齢は関係無いと思います、失礼致しました。

お客様から熱烈な指名やその後も続けて欲しいなどの要求メールは割とありますが、スタッフ側から何か、というのはあまりないですから。

もちろんスタッフの皆様達一人一人で解決されてこちらに情報が来ていないだけかもしれませんが」


「録音とか運営で聞いてるとか無いんですか?」


イチロウが以前から思っていたことを口にするとセイヤは、


「いえ、そう言ったことはしておりません。

規約にも書いていませんので。

ただ言った言わない、というトラブルがわずかですがありますので、悩ましいところですね」


イチロウの疑問に、セイヤはそう答えた。


「さて、このお話を含め、各自お話ししたいことを席順でお願い致します。

スタッフの対応向上、意見交換、何よりも、カフェでの事は外では話すことは出来ませんので、ここでお話しすることで精神的に少しでも消化して頂ければと思います。

では、ヒロ様から」


セイヤに促され、ヒロはコーヒーを一口飲むと、話し始めた。


「私は妻を交通事故で亡くしているから、そういう関係で意見を聞きたいとか、わかり合いたいというお客様が多い。

だからか、精神的に不安定なお客様が多いんだよ。

大抵は運営側で調べてこちらでさすがに対応は難しいものははじいているいるようだけど、所詮書いてる内容だけでは女性の精神状況がどこまでの状態なのか判断できない。

僕たちは専門家じゃない。

医者でも弁護士でもない。

ただの茶飲み相手だ。

お客様もわかっていて感情が抑えられなくなったりと対応が難しい相手もいる。

そこはいつも悩ましい。

まぁそういう話は後で運営側とも話をするとして」


セイヤはヒロを見て軽く頷いた。


「今回対応した中で一番印象深かったのはまだ20歳くらいの子で、お姉さんが殺され、お母さんが自殺したという今まで私が対応した中でもかなり重い内容だった。

お父さんが早くに離婚して、父親ということを知らないと言うことで、家族ごっこのようなこともしたけど、いや、なんというか、結構対応していて辛かったね」


伏し目がちにヒロは思い出すように話す。


「たまたま私が対応していた時に酷い状況と改善する兆しが彼女に起きたが、その後の状況がわからないというのはいつも不安になるね。

自分が対応してこんなにも消耗している子をもっと苦しめていないだろうか、とか。

それでお客様にお願いしているアンケート以外にも、その後一方的でよければメールを一定期間受け付けるというシステムになってから、少し安心する部分も出来た。

今回も、その子から彼氏が出来た、というメールを本部が受け取ったと連絡があったときには、おめでとうとどんなに彼女へ直接伝えたかったか・・・・・・」


そのまま黙り込むヒロの様子を見て、セイヤが口を開いた。


「以前から、お客様からのその後の連絡を受け付けるのはどうかという意見がスタッフから多く、スタッフの品質向上のアンケートにコメント欄もありましたが、別途お客様の声としてメールを受け付けることにしました。

もちろん再度話をさせて欲しい、返事が欲しいという内容もございますが、一定程度の期間のみの受付ですので、スタッフとしてはその後の状況を知る機会も出来、モチベーションにも良い影響を与えていると思います」


「ほんと、一時期しか関われない分、その後がむちゃくちゃ気になるんだよねぇ。

地味に悶々とするときあるし」


「こればかりは正解が無いからなぁ」


いつも陽気なタクヤが少しため息をつきながらそういうと、オサムが同意した。


「妻の死を経てこんな形で外に広がれるとは思いませんでしたが、本当にこのカフェには感謝しています。

今回で最後ですが、本当にありがとうございました」


そういうと、ヒロは深々と皆に向けて頭を下げた。


「いえ、こちらこそ、ヒロ様からの意見は私ども運営も非常に勉強になりました。

どうぞ最後の会合も忌憚ないご意見を」


そういってセイヤが微笑むと、ヒロは困ったように笑った。


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