第31話
「さて次は、オサム様ですね」
「すみません、やらかしました」
「うん、是非詳しく」
セイヤがオサムに順番を振れば頭を掻いてそういうオサムに、笑顔でリュウが突っ込んだ。
「あー、うん、この会合はミスこそ共有すべきだから恥を忍んで言えば、さっきも少し話したけど、初めて気を許してしまった女性だったと思う。
それで彼女を不快にさせてしまったのに、彼女はまたこんな俺を指名してくれて、会いたい、みたいな事を言われて、その、舞い上がったというか」
最後は顔を赤くしながらぼそぼそと話しているオサムに、タクヤがヒュゥ!と口笛を鳴らした。
「非モテにそれはきついね!」
「タクヤ君みたいにもてる人間には、長年非モテで暮らす人間の苦悩などわからんだろうさ・・・・・・」
タクヤとオサムのやりとりを見て、イチロウが、あのーと声をかけた。
「オサムさんって非モテなんですか?
税理士さんなんですよね?
ここのスタッフもしてるんですし、モテないなんてただの思い違いでは?」
その言葉に他のメンバーはイチロウを見た後、皆顔を背け笑いを堪えた。
「あ、すみません、ずかずか失礼な事を・・・・・・」
「いや、良いんだよ、イチロウ君は始めた理由を知らないんだし。
本当に非モテだからこそ、ここのスタッフになったんだよ。
女性と話す機会がなかなか無いのに、仕事では嫌でも女性と話すわけじゃない?
これには仕事をしていく上でかなりのハードルだったんだ。
ここはスタッフとして現場に出る前にきっちり女性相手に研修あるし、慣れるためと仕事でのコミュニケーション能力向上のためにここのスタッフを始めたんだよ」
「ではもう慣れたのでは?」
イチロウの無邪気な質問に再度皆は笑いを堪え、セイヤは困ったような笑みを浮かべている。
それにオサムは特に嫌そうな顔もせず、ただ情け無さそうに話を続けた。
「そうだなぁ、わかったのは面と向かって話すのと、通話は雲泥の差ってこと、僕の場合」
そう言いきったオサムに、今度は皆が切なげな目線を向ける。
その視線に気がついたオサムは、恥ずかしさに耐えきれないように声を出した。
「もうここで勘弁して!
はい次!次リュウくんでしょ!」
「はは、了解です」
投げやり気味にオサムがリュウにボールを投げた。
「うーん、僕の所には甘えたいとか、癒やされたいとか色々くるんだけど、やっぱり今回は不倫していたあの子かなぁ。
あの子は実に、美味しそうだった」
「アウト」
少し宙を見つつ思い出しながら話すリュウに、オサムが冷めた目で突っ込んだ。
「あくまで感想を言ってるだけですよ。
宿り木カフェには、甘える相手のいない女性が多いから、そういう、特に自立した女性を相手にするためには、やはりある程度の教養や心の余裕が必要だと思いますね。
彼女たちは非常に敏感なので、こちらが無理をしていると感づいたら、一気に甘えるスイッチを無くします。
それに自分より教養の無い人間には気すら許さない傾向がありますね」
「あぁ、それはそうだね」
リュウの言葉にオサムが頷いた。
「え、俺、あんまそういうお客さんいないな」
タクヤの言葉に、リュウとオサムが苦笑いをする。
「私どもの方でお客様の要望に添ったスタッフをお願いしていますので、タクヤ様はタクヤ様なりの得意分野でお客様に対応して頂いているので大丈夫ですよ」
「あっ、今悲しいフォローされた」
がくりと肩を落とすタクヤを見つつ、イチロウが不安げにセイヤに問いかける。
「あの、僕は何かスタッフをする上で勉強の必要があるでしょうか。
こういうことをしてますし、カウンセラーの勉強も必要かと思い始めて」
「いえ、不要です。
ここはあくまでお客様とカフェのスタッフが立ち話をするような場所です。
間違っても何か正しいアドバイスをしなくてはとか、専門知識が必要な訳ではありません。
必要なのはスタッフ皆様がお客様の話を聞き全てを受け入れた上で、率直な言葉や真摯な対応のみです」
セイヤは穏やかにイチロウに語りかけた。
「えぇ、私達はいつもこれで良かったのだろうかと自問自答しています。
私達の言葉がお客様を傷つける事だってあります。
だからこそこういう場で、私達はあれこれ話すのですし」
ヒロの言葉にイチロウはまだ難しそうな顔をしている。
言われたことはテキストも無いこと。
むしろ難しい事だった。
「あんまり力みすぎるとスタッフなんて続けられないって。
俺たちはほぼボランティアなんだし」
「申し訳ありません・・・・・・」
「すんません!
いや、お客さんの出してるあの費用そのままもらってるだけでもありがたいです、はい」
セイヤの謝罪に、慌ててタクヤはフォローする。
「セイヤさん、今度また新しい人を探しているんですか?
それとも既に研修中?」
リュウが尋ねると、セイヤが頷く。
「今研修中の方もいますが年齢がお若いので、もう少し上の方をと」
「本当に全員スタッフってセイヤさんの一本釣りなんですか?」
セイヤの言葉に、イチロウが聞くと、えぇ、と笑みを浮かべセイヤは頷いた。
「ボランティア同然のお仕事ですが、やはり信頼出来る方でないとお任せする事は出来ませんから」
なるほど、とイチロウが頷いていると、セイヤがタクヤに視線を向ける。
コーヒーを飲んでいたタクヤはその視線に気がつき、苦笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます