第10話
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『あーそれ確信犯だわ』
「え?」
私は早々に『宿り木カフェ』に予約を入れた。
今回も1時間にしたのでなかなかオサムさんとの都合がつかず、彩との電話から一週間以上経っていた。
スタートした途端、私はまずは報告を聞いて!と一方的に彩と電話をした一件を話し終えると、オサムさんは呆れたような声で言われた。
その意味がわからず聞き返す。
『だから、はめられたの!貴女が』
「やっぱり!
大丈夫かな、彩・・・・・・」
私の言葉に、イヤホンから、ぶは!という笑い声が聞こえてきた。
『いや、君、人良すぎ』
「え?どういう事?」
『全部の黒幕は君が親友と思ってる、その友人だよ』
「だからどういう事?」
私にはオサムさんの言葉がさっぱりわからない。
うーんと長く唸るような声が聞こえた。
『では、一つずつ彼女についての疑問を解いていこうか』
まるで名探偵が謎を解き明かすことを明言したかのような真面目になった声に、私はごくりとつばを飲み込んだ。
『子供が予想外に出来ちゃったって話。
あれ、全て彼女の計画だろうな。
いわゆる、安全日なの、みたいな事言って男を安心させて既成事実を作ったのさ。
勢い?嘘だね、そうそう一回で出来るかっての。
もう随分前から付き合ってて、なかなか結婚を言い出さない彼に業を煮やしていたんじゃない?
それで彼女が強硬手段に出たんだろうな。
実はピル飲んでたと言って飲んでなかった、とかもあるか。
それで彼女の思惑通り妊娠し、それを彼女は彼に報告した。
彼女も演技しただろう、まさか出来るなんて思わないよね、でも貴方はお父さんなのよとか言ってさ。
相手は観念して結婚することに踏み切ったんだろう、彼女の嘘をどこまで見抜いているかはわからないけど』
私は饒舌に謎解きの解説をしているオサムさんの言葉に、呆然としていた。
それは彩が、ずっと相手は居ないとか、気になっている人が居るとかも全て嘘で、実は彩自身は着々と彼と結ばれるために策を進めていたという事だろうか。
『次。メールの返信が遅れたこと。
もちろん事情があって早くに返信出来ない事だってあるだろう。
じゃぁそんな時、君ならどうする?
もし数日高熱で寝込んでて連絡出来なかったら。
仕事先や親しい友人でなくても、君なら連絡出来る状態になれば速攻連絡するだろう?
それも理由を書いて。
どうしても書けない内容だとしたら、良いわけをして取り繕うだろう?
相手の気分を害したくないし、関係を悪くしたくは無い。
でも彼女は遅れた理由を特に言ってない点でも、君の存在価値が一気に落ちたことを表している。
そうだよね、ずっと欲しかったモノが既に手に入ってるから。
だから君に気を使わなくても良い、ぞんざいに扱っても良い相手になったのさ』
「そ、それは」
『そして週末の電話。
日時を指定したのは彼女なんだろう?
確かに週末なら彼氏がいたっておかしくないかもしれない。
でも、普通ならその間だけ少し側を離れてもらうとかするだろうな、相手の、君の事を考えるなら。
でも実際はそんな声をもらすほど男が欲情するような状態で電話してた訳だ。
もしかしたら、二人とも裸で事後かそれとも最中だったかもしれないし。
まぁ電話かかってくるのわかってるのにそこで線引き出来なかった時点で、君はもうついでの存在なんだろう』
聞きながら、次々と自分に細いナイフが突き刺されていくのがわかった。
突き刺されながら、辛くて悲しくて痛くて、でもそのナイフが自分の見たくなかった扉に届いている事を自覚する。
そうだ、薄々感づいていたのかも知れない。
彩が、私を親友とは見ていなくなっていたことを。
『・・・・・・悪い』
「・・・・・・」
『こう、相手を気遣えずにバンバン言ってしまうのが、交際相手が出来ない理由の一つだとわかってるんだ。
ずっと気をつけてたはずなんだけど・・・・・・いや、ここで弁解するべきじゃないよな』
「すみません。
あの、今日はここで終了していいですか?」
残り時間を確認せず私は言った。
『ごめん、あまりに不躾な言葉を言ってしまった。
さっきのは単に僕が勝手に想像した事だから、真実じゃ無いかもしれない。
だから言ってしまってあれだけど、その、どうか気にしないで。
後でカフェには事情を連絡して今回分は無しにしてもらうから』
「いえ、そのままでいいです。では」
私はすぐに通話を切った。
その瞬間、一気に涙が溢れてくる。
通話を続けているなんて出来なかった。
そうか、・・・・・・そうか。
私が親友と思っていたあの子は、もういないんだ。
辛いというより寂しい。
心臓がぎゅうぎゅうと握り潰されていくかのようだ。
私はどん、と机に突っ伏せると、家族に気づかれないように泣き出した。
*********
翌日、『宿り木カフェ』から謝罪メールと前回分の回数が戻ってきて、スタッフを交代させますと連絡が合った。
私は返信する気力も起きず、それを放置した。
そして、日を置くにつれ段々と冷静になってきた。
私が思っていた彩という中学生からの同級生は、ほんとはどんな子だったのだろうかと。
ずっと誰よりも知っているつもりだった。
途中から変わったのだろうか、わからない。
けど、大学時代から、違和感に気がつきだしていたような気もする。
私は気がつきたくなかったんだ。
ずっと私の思う、自由奔放で、でも私の事を実は大切にする理想の彩で居て欲しかった。
もしかしたら、私のそんな勝手な思いが、彩が私から遠のきたかった理由なのだろうか。
ずっと私が恋人が出来ないと嘆いているのを、彩は裏で笑っていたのだろうか。
自分には自分に夢中の男がいるけど貴女はいないのねって、実際は哀れんでいたのだろうか。
きっとオサムさんに言われなければ、私は薄々気がついていた事から目をそらしていたかも知れない。
彩が悪いんじゃない、変な男に感化されてしまったんだと、自分の良いように解釈していたかも知れない。
いや、きっとその可能性の方が高かった。
切なすぎる。
あまりに哀れで本当に馬鹿だ、自分は。
心の中がぐちゃぐちゃして、苦しくて、今すぐこの気持ちを吐き出したい。
友人になんて話せない。
そしてよぎったのは、ある一人の男性だった。
私は『宿り木カフェ』にメールした。
オサムさんのままでいい、次の予約を入れたいと。
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