記憶

「私、何か意図的に忘れている気がするの、あるいはそれは私の意図ではないかもしれないけれど」

「……」

 クオンが黙り込んだのにもわけがあった。オリエラの事を調べたり、オリエラとミラの事を調べていくうちに何か引っかかる気がするのだ。重要なピースが抜けているような。かといってオリエラが何かを隠しているとか嘘をついているような様子もうけない。それに、ミラの悪霊についてもそうだ。確かに悪霊化はしているが、悪霊化した時点で、彼女は本来のミラとかけ離れた存在になっている。それにオリエラが記憶を失っているのなら、そこに問題があってもおかしくはない。

「っ――」

 知らず知らずに頭を抱えて考え込んだ。コーヒーを流し込み、頭をかく。クオンは時々傍に人がいるのも忘れて自分の考えに集中することがある。その時も全くそうだった。

「あの……クオン?大丈夫?」

「はっ、ごめんなさい、私」

「いえ、大丈夫よ、きにしないで、何か心当たりでも?」

「ええ」

 だますわけではないが、オリエラにミラが悪霊化したことを告げるわけにもいかない。ミラを調べるうちに、穴が開いた箇所が見つかったとでもいって取り繕うことにしよう、そう決めて口を開こうとした瞬間だった。

 ふと目の前に、真っ黒な影が、視界全体、カフェ全体を覆いつくすような影が現れた。人目でそれが危ないものだとわかる影が。それはこちらをみて、にやりと笑う。女性の悪霊。クオンはその影に見覚えがあった。

「ミラ……」

「え??」

 オリエラがクオンの言葉に首をかしげる。

「今、ミラって」

 と、突然黒い影が小さくなり、ある人物の背後にかくれた。その人物がクオンとオリエラに声をかける。

「あら、偶然ねえ、二人とも」

 それは、たまたま同じカフェにたちよったという、アールとクリエだった。クリエの背後にぴったりと件の悪霊がはりついている。アールのことをあざ笑うように指をさしたり、頭をたたいたりしている。

「……クリエ……さん」

「??どうしたの?元気ないわね、クオン」

「クオンさん……あの時はお世話になりました、本当に感謝しています、おかげで今日退院できました」

「クオン、私からも感謝するわ、私のところにきた変な影だけど、私もあれから何もないのよ」

「何の話?」

 アールが尋ねると、クリエはばつがわるそうにいった。

「なんでもないわ、さあ、ねえせっかくだから、ご一緒してもいいかしら?」

 たしかにソファーの席はあいていたので、皆で一緒に休憩をすることにした。

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