怨霊

 怨霊は、そのあまりにネガティブな想いのせいで、たとえ当初大した悪意をもたなかったにしろ、徐々にその意識が肥大化し、当初の目的を飲み込むほどに多くのものへ悪意をむけることになる。はじめの意思が何であったにしろ、徐々に当初の意識は薄れていき怒り、悪意、憎悪、ネガティブな感情によって自我や目的を蝕まれ、ネガティブな感情を人に向ける事こそが目的になっていく。そうなってしまった怨霊は最早手が付けられず、目的を達成するか、浄化されるか、その目的を完全に飲み込み災いそのものになるかしなければ、止まることはない。

 その中でもかなりすすんだ波動を、ソネーユはクリエに取りつくその怨霊から感じた。

「これは……だめだ」

 一瞬今の状況を忘れ近くの窓から逃げ出そうとおもった。飛べばなんとかなるし、妖精である自分は小回りも聞くし狭い場所も通れる。

「逃げよう……逃げ……」

 後ろをむいて窓にむかってとんでいったその後で後ろを振り返り気づく。

(でも……クオンは?クオンはどうするの?)

 そこでようやく状況を思い出した。自分ひとりではない。クオンは眠りについている。クオンは物理的に危ないのもあるが、彼女は霊力がつよく、その魂の半分ほど霊体でできている。たとえ目を覚ましたとしても、二重の意味で危険だ。

「やめ!!!やめ、て!!」

 次の瞬間、ソネーユは覚悟したように目をつぶり、勢いよく悪霊の前に飛び出た。

“スッ”

(え……?)

 どうやってそうしたのか?何が起きてそうなったか、まったくわからなかったが、ソネーユが気づいた時には、すでにクリエと悪霊は彼女の後ろに回っていた。

「だ、ダメ、彼女にふれないで……あなたの目的は違うでしょ」

「ぬぬ、ぬぬ」

 何事か意味のない言葉をつぶやきながら、クリエに取りついた悪霊はクオンに手を伸ばす。

「だめ!!クオン!!起きて!!」

 しかしクオンは疲れているせいか、そしてソネーユは幽霊であるため、空気を揺らした声をだすことができず、揺さぶり起こすこともできない、意識がある場合にしか対応できないため、クオンは全く気付かなかった。ふと、ソネーユはある思いつきをして、大きく息を吸い込んで叫んだ。

「オリエラ!!!!」

「!!!」

 その声と意味にきづいたのか、奇妙に首をねじり、ふりかえり悪霊のついたクリエはソネーユを睨んだ。

「どうして、そのナマエを……」

 素早くソネーユに近づき、ソネーユが逃げようとした瞬間にその首を両手で絞める。


 

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