切迫
現実では……おびえるソネーユが望まぬ来訪者の方を見つめ身構えていた。ふと考えをめぐらせる。
(そうだわ、いつもこの時間帯は女一人だと危ないし、玄関の鍵をしめろといってあった、今日も閉めてるのを確認したわ、いくら悪霊やあの大家でも、すぐにははいってこれないでしょう!)
そして少し余裕をとりもどし、胸を張って笑った。その瞬間だった。
“ガチャガチャ……ガチャリ”
あきらかに、ドアが簡単に開かれた音がした。
(嘘でしょ?どうやって?あの大家はそこまで常識はずれじゃないし、悪霊が何かしたの?どういう悪霊なの?)
玄関と廊下の明かりは省電力のため消してあり、間接照明だけが、つきあたりのリビング兼クオンの部屋を優しくてらしていた。
「……いる……ノ」
玄関口からあきらかに異質な喉の使い方、普段とは違うクリエの声がした。
「ネエ、いるの、よね、そこに、ワタシ、ワタシは……“ミラ”」
その瞬間、背中に寒気をかんじた。ミラというのは、クオンが必死に調べている、あの女性、オリエラの幼少期の友人だ。その友人が亡霊、悪霊としてクオンを訪ねてきた。
「やっぱり、普通の依頼じゃなかったんだ、こんな悪霊、手に負えないかも……」
ゆっくりと廊下をつたってくる足音が聞こえる。ぺたぺたという音からしてはだしなのだろう。オリエラはなにごともなく状況がすぎ、悪霊が悪さをしないことをいのった。だが、その祈りが無駄におわるとは知らなかった。
「うふふふ、見つけた、ふふ、“殺さなきゃ”……ともだち……」
「え???」
「敵をころせ、つぶせ、殺せ」
ぬるりと暗闇から姿を現す、その悪霊は、悪霊がとりついたクリエは右手に巨大なハサミをもっていた。悪霊は、クオンというより、ソネーユをみつけると、巨大なはさみをもちあげた。
「オリエラちゃーん、みーつけた!」
にやりと不気味な笑みをうかべ、目を光らせた。
「に、逃げなきゃ、でも、足が、足がうごかない……」
オリエラは恐怖に表情をゆがませていた、霊体は物理的なもので傷つけられることもそれが原因で死にいたることもない。だが、霊的なものは別だ。霊的なものに害を与えられ。傷ついたり悪くすれば悪霊となることもある。しかし、問題があった。何よりフェアリーは、争いと痛みをきらった。それに件の悪霊つきのクリエがもっているハサミは、明らかに呪物らしき波動をもっている。
(なぜクリエが、なぜ、ミラ、オリエラの親友の亡霊がオリエラを狙うの?)
心当たりは一つ、怨霊のたどる数奇な運命にヒントがあった。
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