訪問者

“コンコンコン”

 クオンの部屋のドアがたたかれる。チャイムではなく、ドアがたたかれるのは奇妙なことだった。いままでここで暮らしてきてそんなことはほとんどなかった。

「誰だろう」

 ソネーユが反応する。クオンはいまだ寝息をたてている。

「いや、この気配は……」

 ソネーユはあからさまに嫌な顔をした。その気配に覚えがあったからだ。けれど次の瞬間、背筋をぞくっとするいやな感覚が走った。

「……違う……もっと、もっといやなものが」

 恐ろしくなり振り返りクオンをゆさぶる。

「クオン!!クオン!!」

「うーん、うーん」

 しかしいくらゆさぶってもクオンは起きようと声をあげるが、なかなか目を覚まさない。おり悪く連日の疲れがでている形だった。

「こんな時に、あれは……悪霊、悪霊は自我を失う、もしクオンに何かあったら……」

 ソネーユは、ふと、玄関に目をあわせ、そして一息ついた。

「わかった、私の妖精力をつかって時間稼ぎをしよう、さすがに“アレ”の気配が近くにくれば、霊感の強いクオンも目を覚ます」

 そしてソネーユは、最後のだめもとで、クオンをゆさぶり、声をかける。それは彼女の夢のなかに響くように、テレパシーを使った声だった。

“クオン、現実でまずいものがあなたの部屋に尋ねてきた、私が時間を稼ぐから、その間にもどってきて”


 クオンはというと、以前オリエラのいった公園で一人ブランコにゆられていた。天から声がした気がしたものの、それが何なのか思い出せなかった。

「お父さん?お母さん?」

 立ち上がり、あたりを見渡す、だがそれらしき人の姿がおらず、がっかりしてブランコにまたがり、赤らみ日の暮れていく空をいていた。ふと、砂場で遊ぶ一人の少女にめをやる。顔は見えず、知り合いというわけではないが、たまに一緒に遊ぶことがあり、何故か彼女の名前をしっていた。

「オリエラ……」

 そのオリエラのそばにきて声をかける少女がいた。

「オーリエラ!」

「ミラ!!」

 二人はお互いを確認するとだきあった。

「習い事はおわったの?」

「おわったよ、お父さんとお母さんもきてる」

 そういうと振り返り公園の入り口にたたずむ二人の男女に目を向けるミラという少女。彼女の親らしき二人が、そちらに向かって手を振っていた。

「オリエラ―、今日ねー」

「ミラったらおかしい」

 二人は砂場で一緒に何か大きな建物をたて、二人だけで仲良くあそんでいた。夕日がどんどんくれていき、夜がせまろうともその光景は誰も止めることがなかった。

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