決戦
「や、やめ……てっ!!」
それが上にまたがり、見下ろしたその顔を自分の顔に近づけてきたとき、いきおいよくからだをひねり、圧迫された状態のまま手だけをその怪物の頭めがけてぶんまわした。
《ゴリッ……》
(!!!)
その顔にテレビのリモコンがあたると人間の骨格に固いものが当たったときのような音がした。そこで、クリエは心のどこかでしめたとおもった。
「やっぱり!!お前、人間だろう!!!」
近所迷惑など構わずに大声をだし、自分をふるいたたせながら、その怪物の方にてをやり、体中を覆う黒い布らしきものをとりさろうとした。だが……。
《ヌルッ》
肩にかけた手はするりとすりぬけて、ただぬめりをもった水にふれたような感覚が通りすぎていき、やがてその手は自分の腹部にもどった。
「グルウルゥ、アルウゥ」
次にまるで獣のような声をあげ、頭をなぐられた怪物は、ひるんで上半身をおこして、頭を抱えて、部屋をのたうちまわった。
「ハンパモノ、ハンパモノ、能力者、霊能者、ハンパモノ!!このハンパものガ!!」
おおきく肩をはって、いっそうつよく顔を覆って潰れるほどに力をいれる怪物。
「お、おい、あんた……何を……」
それは、まるで布を羽織りお面をつけた人間が空白にむけてお面をひっこめたようにくぼみをつくりひっこんだ。
「ブグググ、グググ」
その引っ込んだ顔は、体全体を弾力の強いゴムのようにねじまげておしこみ、あるところまでギリギリとおしこむと、その足は4つ、手は通常通り二つあるようにみえた。こんどは足をまるで地面を這う虫のように先端をとがらせて、勢いよく廊下に突き刺した。
“ガンッ”
と同時に、いままでおしこんでいた手をいきおいよく離した。
“ぐにょん!!”
いきおいよくとびだした顔は、仮面のように無表情で、そのまま一直線にクリエのもとにとんできた。
「イヤアアア!!!やめてえ!!」
クリエは両手でその顔が突進してくるのをとめよううとする。いくら幽霊を信じておらずともその仮面のような顔―血の気のない無表情の顔が―伸び縮みするろくろ首のような首が、君が悪くて目を前腕で覆い、衝撃にそなえた。
“ズドン!!!”
まるで、巨大な男にタックルされたかのような衝撃があり、ゆっくりとめをあける。幽霊の姿はなく、クリエは廊下に奴の痕跡をさがす。すると、やはり廊下には奴が足をつきさした跡が残っており、クリエは首をかかげた。
「クフフフウフ」
妙な声をきいて、クリエは頭をさげた、小型化した先ほどの幽霊が、胸元でけたけたと笑った。
「いやああああ」
次の瞬間、それは恐怖の雄たけびをあげるクリエの口からにゅるにゅるとクリエの中に侵入した。
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