影と夕方

「もう、この建物も古いから、こんな音もなるわよね、あるいはほかの住人かしら……」

 独り言をつぶやく、だが大家の部屋は一番下、上はひとつ部屋があいていてその上がクリエの住宅兼、仕事場。下から音がするのはわかるが、上から奇妙な音がひびいて、少し不思議におもった。だがそれも風呂にはいりごはんをたべたら忘れた。その頃は夕方で、ちょうどクオンもまた仕事をおえ、休み支度をして、最近熱心に行っているオリエラに関する調査をしているところだった。

 テレビをつけて安らぐクリエ。

「あはは……ふう……」

 ビールをのみながら、おつまみのピーナッツをたべる。ここだけどこかの居酒屋のようだった。化粧もおとしおえ、外に出る用事もなく、あとはゆっくり眠る準備をするだけだ。そうやって心がリラックスすると、自然とあくびがでて、のびをした。そんなときだった。

「パキッ……」

 だれかが部屋の中を歩くような音がして、ふりかえる。しかしだれもいないし、何もいない、後ろのソファにてをつき、奥、玄関口を見渡すも何もいない。

(気のせいか……)

 そうしてまたテレビに目を向ける。

「あはははは」

 好きなお笑い番組でご機嫌で、すぐにそのことをわすれていた。だが数十分後

「バキバキバキッ」

 すさまじい音がして、ふりかえる廊下。そこには奇妙にも渦を巻くような薄暗闇が存在していた。

「!??ま、まさか!!」

 めを凝らしてそれを見つめるクリエ。それは何か、意味のある形状をしているようにみえ。それは奇妙にねじれた人間の体のようにみえ、徐々にその形をなしていく。ねじれた背中、胴体、そして前面にむいている腰、手足が奇妙に、まるで虫のようにのび、突端は天井や床にびったりとひっついている。

「グシャアア、アアア、アアア」

 奇妙な鈍い太い声をあげ、その中心にある恐ろしい女性の顔がゆっくりと頭をもたげた。

「い、いないわ、何かの見間違いよ、こんなのありえない」

 一歩また一歩と、しゃがみながらソレと距離をとろうとする、クリエ、しかしゆっくりと、奇妙にかさかさと手足を動かすそれは、遠慮なくクリエに近づいてくるのだった。

「スー、スー」

 まるで髑髏のような喉もとから声がぬけていき、声にならない声を発するそれ。クリエは、近くにあったテレビのリモコンをにぎり、ソレが自分に近づいてくるのをまった。

「クシャアアー!!!!」

「キャアア!!」 

後ろ向きに転倒するクリエ、とびかかってくるソレは、クリエをしたじきにして、上にまたがった。

「トモ、ダチ、私ノ……」

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