疑い

 その少し前。友人が襲われて、何かしてやりたくて仕方なかったクリエは一人でその人脈をつかって、クリエを襲った犯人を捜していた。

「やはり、“友人の能力がどうとか”言ってるやつが怪しい、いつも違う名前を名乗っているが、ただ一つ気がかりなのは……」

 ただ一つ気がかりだったのは、襲われた人間は、命に別状はないが、必ずといっていいほど“異形のものに襲われた”“幽霊に襲われた”などと奇妙なことを口にするのだ。クリエの本業は占いで、かつてオカルト的世界を本気で信じていたが、ある事がきっかけで、その非科学的なものへの信頼はすべて崩れ去った。それからも、その知識をいかして仲間をつくったり、助けたり、コミュニティを作ったりはしたが、その主従関係はしっかりしていた。

“オカルトを信じず、オカルトをひざまずかせる限り、この商売はうまくいく”

 そのゲン担ぎのような思考は、いまも彼女を支えているし、だからこそ彼女の周りには彼女を頼るものも多い。自分からその商売を選びながらも、この商売のもつ陰鬱な感じや、非日常じみた空間に、気がおかしくなるような人間もままいる。初めは今回の件も、その類だろうと思っていた。


 だが整理したり、襲われた人間に話をきくと、はっきりとした調子で、しかも霊の存在を信じていなかったり普段みない人間さえもそんな目にあい、“黒い影のような人影に襲われた”それが事実であると主張する。

「しかし、そんなわけはないんだ、そんなわけは……」

 その日の午前、クリエはアールの見舞いにいった。そしてアールの話をききながら、昔話に花を咲かせた。クリエの目は慈愛にみちて、そしてアールがこんな目にあったことで悲しみに満ちていた。

 ふと立ち上がり、化粧を直すといってトイレに急ぐ。そして、トイレにだれもいない事を確認すると手洗い場の前で、ポケットからあるものを取り出した。棒状のボイスレコーダーである。彼女はいまだに、亡霊が人を襲うとは信じられず、何らかのトリックをつかった人間の犯行であると信じていた。

「必ず、しっぽを捕まえてやる……幽霊など、いるはずがないんだ」

 鏡にむかって、そうつぶやく、その瞬間、後ろを通りすぎていく一つの人影を見た。真っ黒で手足が異常にながく関節が奇妙に曲がっている。アールがいう“犯人像”そのものだった。

「まて!!!」

 すぐにトイレをでて人影をおいかける。それはアールの病室に向かったので余計急いでそいつをおいかけ、アールの病室に入るまえにその肩に手を伸ばした。

「まて!!」

 たしかに、感触があり、人影は振り返る。


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