クオンとソネーユ。

 ソネーユとクオンの出会いは、まだクオンが小さな頃だった。物心がついておらず、その頃から病弱で病院や家の部屋をしめきって看病されていた。幼い頃からすでに、孤独だったクオンは空想の友人を作る事が趣味だった。初めは、ソネーユのほうがそんな彼女に目を付けた。見えないものを見る能力が彼女に備わっていることもなんとなく感じとれた。いつしか家に住み着き、ソネーユのほうが、彼女に同情し、何度も呼びかけたり、元気づけようとしたのだが、しばらくは、クオンはそのソネーユの姿を見る事ができなかった。生きなければいけない。どうして自分はこんなに病弱なのだろう、とそのことばかりを考えていたからだった。それもほとんど物心がついていないときだったから、親のためにそう考えていたという所がつよかった。だから彼女に本来そなわっていた自分の隠れた能力や、神や精霊と触れる能力を信じる事も使うこともできなかったのだ。

 だが物心ついてから様子はかわった。クオンは、絵本、小説、物語にふれることによって、彼女に本来そなわっていた、自分のことより他者の事を思いやる気持ちが芽生え、その感性がうまく彼女の霊的能力を生かすことになり、彼女はソネーユを見ることができるようになった。

“あの頃から何もかわっていない、彼女の純粋さはそのままだ”

 だから心苦しい、その時がくれば彼女は妖精である自分を見なくなるが、反対にソネーユにはクオンにはそうなってほしい願望がある。クオンは、昔から人形を相手にして遊んでいた。もしきっと彼女が家の外にでるようになったら、“その時”がいずれ、近いうちに訪れるのだと思っていた。クオンはまるでその頃の孤独を、人間の同族としての孤独をどこかで癒そうとしているのだ。だからソネーユは、それからもクオンをとめなかった。必死になり、仕事の疲れや日常の種々の苦痛をため込みながらも、それでも必死に人のために物事を調査する彼女の姿を。

「彼女は……彼女たちは、何か隠し事をしている……あるいは、彼女が忘れて……」

 あるとき、ソネーユが見守っている中で、自室でクオンはそんな独り言をいっていた。よくみると彼女は机につっぷして眠りこけている。

「寝言か……」

 小さなハンカチをもってきて、彼女の肩にかけた。ほとんど意味はないだろうが、気持ちだけは彼女を守っていたいのだ。

「ふっ……本当に純粋なんだから」

 その時、背後で音がした。

「コンコン、コンコン」


 

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