兆し

 薄暗い夜道を、黒い人影が走っていく。

「ホンモノはどこだ……ホンモノは……あの子のために見つけ出さなければ……たとえ他人をどんな目に合わせても、早く」

 それは、異形の形をした人型だった。アールを襲ったモノのように、いびつな体をもち、黒い影がかたまったかのようなものだった。まるで獣のような姿になり、手足は異常にながく関節は奇妙な場所で曲がっている。やがてある建物の中にはいると、占いと書かれた看板を通りぬけ、小さな建物の中にはいっていく。それを追う視点があり、こそこそとそのあとをついている。

「まさか……」

 追いかけていた主は、嫌な予感がしていた。噂にきいていた、霊能力者を襲うという例の“何か”だろうか。そしてこの主には、ソレに対して、なにがしかの知れぬ縁を感じていたのだ。早くとめなければ……急いでおいかけるも、すでに時が遅かったのか、中から男の悲鳴がひびいた。

「ぐああああ!!」

 しかし、あの影は確かにそこに入っていったのに、人の気配はしない。やはりあれは、この世のものでない何かなのだろうか、するとやはり霊能者を襲っているのは……。いてもたってもいられず、影を追いかける。人の気配がして、荒い呼吸が聞こえてきて、心臓をどきどきさせながら奥へと進む、一階の突き当りに扉があり、その中にゴード心霊探求所と書かれてある。中から男のうめき声がきこえる。

「うぐう……だれ、だれか……」

 扉の回す形のドアノブを握る手に力がはいる、ゆっくりとあけていく。扉から目だけをだして、その中を覗く。

「きてくれたか、誰かきてくれた……た、助けて」

 男の弱り切った声がひびき、その上に乗っかっていたものは……手がカマキリのような形をした異形の人間……悪霊だった。

「キシャアア!!」

「ウワッ……」

 思わず悲鳴をあげると悪霊はこちらに気づき、そしてドアの近くまでゆっくりとあるいてくると。

「なンだ……お前か……私のカワイイ……」

 そういってドアの前でたちつくす自分の顏に手を伸ばした。悪霊の目は真っ黒で、その奥の奥から、小さな目玉がこちらをのぞいている。

「ギャーー!!」

 何が起こるかわからず、何が起こっているかわからず、しかしその奇妙な光景に恐ろしくなり悲鳴をあげる。

「ハッ」

 気が付くと女はベッドの上でねていた。その女は、オリエラだった。

「夢か……」

 そうして顏を洗う。その日は普通の一日で、食事をしていると夢の恐怖や興奮もおさまった。

「妙にリアルな夢だったな……」

 オリエラはその後は気にも留めなかった。翌日それが、事件という形で報道されるまでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る