卒業

 だが実は、その出来事には裏の真実があった。卒業して何度目かの同窓会で、よっぱらった友人が話したことだが、かつてクリエとアールの二人は二人ともいじめの対象として狙われていたのだそうだ。だが先に狙われたアールが、いじめをやめるためにお金を払い、クリエと仲良くするように懇願した。そこでクリエは何の困難もなく、いじめっ子の立場の人間たちとも仲良く学生生活を送れたというわけだった。それから、また何度目かの同窓会でそのことを感謝するとともに誤り、大人になってからまた、二人はうちとけ仲良くなったということらしかった。

「ともかく、彼女にはかりがあるから」

 そうして、再び現実にもどってきたクオン。

「罪悪感……ですか、焦りでしょうか……」

「え?今なんて……?」

「い、いえなんでも……」

 クリエは少し考え込むような表情をして、続けた。

「でも、とにかく今回の件は普通じゃないわ、彼女が見たものすべてを信じるわけではないけれど、手の込んだいたずらにしてもやりすぎ、これじゃ私の見守っている霊能力者協会だって、委縮してしまう、変な噂でもたったら……」

「彼女の話を信じないんですか?あの妙な影につつまれたとか、人でないような動きをしたとか」

「いや、それは……気が動転したのかもしれないし……」

「……」

 なるほど、クリエさんには悪気があるわけではないのだ。ただ、心霊現象やそれじみたものはあまり信用していない、できていない。今は見えないけどそれにはまた特別の理由があるのかもしれない。それでも彼女には借りがあるためになんとかしたいと思っているのだろう。クオンはなんとなく理解して、その場をあとにしようとソネーユによびかける。

「かえるよ」

「ええ?まだなにも」

「いいえ、見たわ」

「って、あれ?私みてないよ、また“シンクロ”できなかったか」

 シンクロというのは、ソネーユがクオンと同じものを見る事だ。結構な頻度でおこることなのだが、見られないときもある。得に対象に対する考えや、感情があわないときにはこういうことが起こる。そもそもソネーユは大家クリエさんのことをよくおもっていないのだ。

「もういいの?」

「ええ……私の能力で、だいたいの事情はわかりました、極力仕事の邪魔をしないのであれば、また覗きにきてもかまいませんよ、私もできる限り、アールさんを襲った犯人を捜してみましょう」

 そういうと大家クリエは明るい顔をして笑った。無邪気な少女のような表情で。

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