偶然

 その日クオンは休みの日で、偶々その近くを通りかかり、悲鳴をきいた。すぐにかけつけ、その中へはいっていく。自分が何ができるかわからなかったが、ひとが困っている声にいてもたってもいられないのだ。そこは占い師のみせで、奥に入ると占い師が右手が痛いとうめいていて、ひとはほかにはいなかった。救急車が必要だというのですぐに電話をかける。

「人に襲われた」

 という話を直接その占い師からきいたので、救急隊員にそう話したが、救急車を待つ間奇妙な話をきいたのだった。

「いつもの依頼者だったのだけれど、その人が黒い影につつまれていて、いつもと違う、奇妙なしぐさと言葉遣いをつかっていて“友達について調べろ、占え”といってきて聞かなかった、その通りにしたら、違う、違うといって、そして最後にはおこって、私の腕にかみついたの」

 そういって、右腕をみせる占い師。

「動かないで、大丈夫ですから」

 そういいながらクオンが右手をちらりとみるとたしかに歯形がついている。しかし人間がかみついて骨まで折れるものだろうか?奇妙な話だ、とおもいつつも、救急車がくるまでまっていて、付き添いで病院にまでいった。病院でまっていると家族の方がきて感謝されたが、しばらくすると、大家のクリエさんまでがきて、慌てた様子でこちらに近づいてきたのだった。

「クオン、クオン!!」

 顔を晴らした泣き顔のクリエが、クオンの肩をつかみ、がしっとだきかかえる。

「クオン!!ありがとうね、なんてお礼をいったらいいか、とにかく、あなたがいてくれてよかった、助かったわ……あの子とても昔からおとなしい子だっ一人だったらどうなっていたか」

「……ええ、いや、クリエさん?クリエさんのお知り合いですか?」

「ええ、ええ、昔からの友達なの、アールとはね……」

 アールというのが、襲われた占い師の名前だった。まさかクリエさんの知り合いとはしらず、クオンはただ偶然いあわせて助けただけだが、そのことを説明すると、クリエは驚いて、これも何かのめぐりあわせ、縁なのかもしれないわ。と普段はあまり言わないような事までいってみせた。しばらくすると、仮の処置がおわり面会ができるというので通されて、そこで再び、本人から感謝をつげられた。一通りの事がおわると、クオンは疲れて家路についた。しかし、奇妙な話だ。いったい何が占い師をおそったのだろう。そんなことを考えながら食事を終えシャワーをあびて、寝付くとすでに夜遅く、2時をまわっていた。



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