困惑

「困っているっていう訳ではないんですが」

「何かあった?」

「ええ、ちょっと、新しい依頼者と距離の取り方をまちがえてしまったみたいで、依頼は継続なんですけど、やっぱり人とコミュニケーションをとるのは難しいなって」

「そんなことないわ、クオン、あなたはとてもやさしいしいい子だから、ただ運がないだけ」

 そういってクリエは目を細める。クリエが詳細を聞きたがったので、クオンは躊躇いながらも話始める。

「詳しいことはいえませんけど、ある人が友達の能力について調べてほしいっていってきて」

「……」

 大家クリエは、その瞬間何か意味ありげに押し黙った。そして唇に手を当てて、とまどったあとにある話を始める。

「あのねえ、最近このガドラ街に、妙な依頼者がくるって噂になってるのよ」

「噂?」

「霊能者を探してある人が、依頼をしてくるって話なんだけど、それがとにかく評判が悪くて、依頼の途中で蒸発したり、霊能者を口汚くののしったり、依頼は嘘だといったり、その人が“友達の能力について調べてほしい”っていってまわっているらしいのよ」

「ひどい、そんなことが……」

 ソネーユは、首をひねって、二人の話をきいて、羽をばたつかせてクオンの肩の上をういていた。

「まあ、霊能者なんて信用にたる力をもっていたり、あるいはいつも同じ能力をだせる人の方が少ないからねえ、こういう依頼は困っちゃうし、ちょっとかわいそうよねえ、あんまり私の庭で好き放題されると、どうしようかって」

 クリエは少し間をおいてから、頬杖をつき、肘でつついてクオンをせかす。

「その依頼者、あんたの事うたがってたり、変ないちゃもんつけてこなかったかい?」

「いえ、特には、まだ初回ですし……」

「まあ、気を付けるんだよ、何かあったらまた、火曜日とは言わずに相談にきなさいな」

「ええ、ありがとうございます」

 クリエの家をでると丁度102号室の住人が自分の部屋からでてくるところだった。

「あ、こんにちは、ドザさん」

「こんにちは、クオン」

「……」

「……」

 二人の間に奇妙な沈黙が流れる。ドザは、クリエの息子である。クリエの仕事、占い師としての仕事をあまりよくおもっておらず、クリエが昔わずらった心の病の一種だと考えている。だから、クオンのような人も、霊的な商売をする人も信用していないし、少し憐れんだような目で見てくる。見てくれは、鋭い目に、とがった鼻、主ッとしたあごの輪郭。しっかりとした骨格がうきでた男らしい顔つきをしているのだが、疑り深く、わりと尖ったことを平気でいう。

「あまり、母に変なことをふきこまないでね」

たったいまも、こんな感じで、そんなことをいってどこかへ歩いて行った。

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