第3話

 クオンの能力は特殊だ。人の心や考えがよめたり、そこにふれて会話できたりする。そのときクオンには相手が妖精の姿をしてみえる。丁度いいことに、任意に入り込めるわけではなく、相手がスキを見せたとき、ぼーっと何かを連想したとき、その連想の中から、相手の中に意識が入り込めるのだ。

「いい?そうはいっても、やっぱり突然能力をつかってはだめよ」

「なんで?」

「だから、相手がびっくりしちゃうからよ、いきなり相手の心や思考の奥深くに入り込んだら、それがいくら優れた能力でも、距離感がおかしくて、相手がびっくりしちゃう、仲良くないのにいきなり、重い話題話しても空気が重くなるでしょ」

「どういう?」

「だから、父が重い病気とか、最近ふられたとか」

「なるほどにゃあ」

 思わぬ返答にソネーユは驚いた。

「!?」

「どうしたの?」

「語尾のにゃあ、って何?」

 汗をかいて恐る恐る尋ねる。

「優しいコミュニケーション入門ってウェブサイトでしらべたの、人と距離を縮めるには語尾をにゃあってつけるといいんだって」

「あんたまた、変なところから情報もってきて……本当に私がいなかったら今頃どうなっているのかしら」

「そうね……だから、ね」

 そういいながら、ソネーユを両手で抱きかかえて、クオンは満面の笑みをみせた。妖精には内面が見えるので、彼女には笑っているように見えるのだ。

「いつも、ありがとう、ソネーユ」

 真正面からそんなことをいわれるのでソネーユは照れ隠しにふくれてそっぽをむいた。

「フン!!」

「あなたがいれば、きっと私は私の願いをかなえられる、いろんな友達がいっぱいできるわ」

 ソネーユは、そう言い放って席を立ち踊るクオンの様子を少し悲しそうな表情で見つめた。

「けれど、自信がないのよねえ、私、コミュニケーションがうまくいったとおもったらうまくいかなかったり」

「……うん、それは、あなたのせいじゃないわ」

「?」

「なんでもない」

 ソネーユは知っていた。確かに、普段はコミュニケーションが下手なクオンだが、時折普通に人と仲良くなりそうな時もある。だがそのたびに何かしらの困難や問題にぶち当たり、仲良くなりかけたり、うまくいきかけていた関係が、ぎくしゃくしたり、元の状態にもどったりする。

「あなたは純粋すぎる、これを話すのはまだ早すぎる気がするわ、あなたの両親の死について……」

 ソネーユは、ふと悲しい気持ちになり、クオンの頬にしがみついて抱きしめるようにした。クオンは疑問を浮かべる表情をしながらも、にこにこしていた。

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