酒場(2)

 各地を巡り、その土地々々に住まう「精霊らしきもの」たちを相手に音楽を奏でるのがシュザの仕事だった。


 「らしきもの」というのは、はたして自分が視ているそれらが本当に精霊なのか、彼には確証がないからだ。


 精霊に関して書かれた文献は少なくない。だが、そのほとんどは民話や伝承の類で、かろうじていくらかでも信を置けそうなものにはその姿に関する記述は見付からなかったし、シュザにこの仕事を教えてくれた男は、それらのことを「彼ら」としか呼ばなかった。


 どうでもいいことだった。あれらが精霊であろうとなかろうと、シュザにできることはひとつしかない。


 今日の笛は、あまり彼らのお気に召さなかったようだ。軽快な曲、穏やかな曲、哀切な曲、風変わりな曲など、いくつか曲調を変えてみたものの、どれもあまりこれという反応は得られずじまいだった。楽器を替えて出直すことにして、今日のところは切り上げたのだ。


 反応の好悪は何となく判っても、理由は推測するしかない。楽器を替えるというのも正直適当で、手探りのようなものだ。

粘り強く演奏を続けることで好転する場合も少なくない。明日も反応が芳しくないようなら、本格的に腰を据えてかかる必要があるだろう。

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