酒場(1)

 その日の夕暮れ。シュザは街の酒場にいた。


 街を東西に貫く大通りの真ん中あたりに店を構える、中程度の大きさの店だ。

 流行っているとみえ、開店してあまり時間も経っていないにも関わらず、すでに半分以上の卓が客で埋まっている。


 シュザは卓ではなく、客席と厨房を仕切る横木の前に置かれた椅子に腰掛け、一杯の麦芽酒にありついていた。

 横木に置かれたそれを、ひと息に半分ほど飲み干す。発泡した液体が喉を刺激し、爽やかな苦みと、香草の複雑な香りが口中に広がる。

 この酒がシュザは好きだった。


各地を旅して巡りながら、その土地々々の地酒を飲むのは彼のささやかな愉しみのひとつだが、麦芽酒は麦を多量に使用するため、街によってはそう気軽にお目にかかれないことも多い。こんな風に酒場で、彼のような流れ者が気安く飲める値で供されているというのは、この街が豊かな証拠といえた。


 裏の山脈で鉱山が発掘されてから大きくなった街らしい。それまでは小さな村だったというから、この何年かで急速に発展したのだろう。


 そういう土地では、往々にしてどこかにひずみが生じるものだ。


 二杯目の麦芽酒を頼み、シュザは今日訪ねた、荒れた精霊廟のことを思い返す。

 正確には、廟の周りにいた、もの言わぬ存在のことを。

 (思ったとおり随分とご機嫌斜めだったな、"あいつら"・・・・・・)

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