風の唄い手
@abno
精霊廟(1)
風が澱んでいる。
この街は、どこへ行ってもそうだ。
澱んだ水は傷むように、風も澱めば濁り、悪くなる。
たとえ、目には見えなくても。
ずっと同じ空気のなかにいるためか、街の住民はまだ気づいていない様子だった。
何か異変があったとして、さほど時が経ってもいないのだろう。もう少しすると、感覚のいい人間は違和感を覚え、老人や身体の弱い者は何らかの不調を覚えはじめるはずだった。
(おれの働きどころってわけだ)
役場で貰った地図を手に、シュザは街外れの空き地に来ていた。
街の北側にそびえる山々。そのふもとへ続く林道の、ちょうど入口あたりに、粗末な精霊廟があった。
近づいてみると、造りはそれなりにしっかりしている。粗末に見えたのは、手入れもされておらず、荒れ朽ちるままにされたような風情のためだ。
恐らくは何年も放って置かれたのだろう。シュザは溜め息をついた。
ここの場所について尋ねたとき、露骨に面倒そうな表情を浮かべ、書棚の奥からこの地図を引っ張り出してよこした役場の男の顔を思い出し、さもありなんと思いながら、シュザは腰に下げた筒から笛を取り出した。
拳四つほどの長さの横笛を口下に当て、廟のあたりに眼を凝らす。
「んん。いるな」
そう呟くと、大きくひとつ息を吸い込み、彼は笛を吹き始めた。
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