第2話

雪のひとつぶひとつぶが、きらっきらっと輝いていて、まぶしい。

雪は、こんなに美しいものだったろうか。それになぜだか、外はさほど寒くないのだった。

クーラーの風を真下で受けるような、ちょっと涼しすぎるきらいはあるけれど、ちょうどよい気温とでもいうのだろうか。

「ねぇ見て、雪だよ。すっごく綺麗」

 振り返って両親に呼びかけると、いつの間にか二人は並んで立っていて、困ったように顔を見合わせた。

 それから母は、ため息交じりに言った。

「こっちでは、よく降るからね。もうわざわざ見る気にはならないよ。あんたは本当に、のん気なんだから」

 小さな頃に、そんなに雪が降った覚えがないのだけれど、記憶違いだろうか。

大学に入るのと同時に上京して以来、地元には戻らず東京に住み着いてしまったから、もう三十年以上、ここを離れていることになる。

 気が付かないうちに、思い出は薄れているのかもしれない。

「おばさんも久紀子に会いたがっているから、挨拶してきたらどうだ?」

 父が妙に明るい声で、唐突に言った。母は、そうしなさいと言うように、うなずいている。その顔がなぜか物悲しげで、また胸がざわっとした。

 何かがおかしい。けれど、その正体を突き止めるのは、なせだか怖くて、とっさに父の話に乗った。

「そうする。おばちゃんに会うのも久しぶりだな。手土産、どこに置いたっけ」

 おばちゃんとは、母の妹の佳代子(かよこ)おばさんのことだ。ずっと独身で、うちのすぐ裏に住んでいる。

昔から、母は毎日のようにおばちゃんの家に行っていた。

 一人暮らしで心配なの、と母は繰り返していたけれど、おばちゃんの家でずっと父の愚痴をこぼしていたことを、小学生の時から久紀子は知っていた。

 長時間そんな話を聞かされるなんて、気の毒に思っていたが、おばちゃんは人の話を聞いているようで聞いていないおおらかな人で、要するに二人は、仲の良い姉妹だった。

 帰省する際は、必ずおばちゃん用に栗どら焼きを買うようにしている。久紀子の家近くの和菓子屋に売っているそのどら焼きが、おばちゃんの大好物なのだ。

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