2度目の泡雪

@fuyunire

第1話

畳の上でごろ寝しながら、子どもの頃みたいに端まで転がってみようとすると、お腹がつかえて「うっ」と情けない声が出た。

力を入れても引っ込ませることも出来ない三段腹と、でっぷりとした太ももを見て苦笑する。

「あんた、見たよ。いい年して馬鹿なことして」

いつからいたのか、ふすまを開けて、母があきれた顔をして立っている。髪はとうに真っ白になり、背中もずいぶん曲がって皺だらけだけれど、小言は相変わらずだ。まあ、八十歳になっても頭がしっかりしている証拠で、ありがたいと言えなくもない。

それにしても、母というものはどうして、見てほしくないところをしっかりと目撃しているものなのだろう。

「あー、実家だなぁ」

久(く)紀子(きこ)は思わずつぶやいていた。

生家に一人で帰るなんていつ以来だろう。帰省する時は、いつも夫に息子、娘が一緒だったから、両親と三人ぽっちなんて、なんだかまるで子どもに返った気分だ。

「お父さんとは、少しは話したの? あんた、会うの久しぶりでしょう」

別に悪いことはしていないのに、母からは、いつもどことなく責められているようだ。そう聞こえるだけだろうか?

「今行こうと思ってたところ。お父さんは、あっちでテレビ見てるのかな?」

「父は、今、居間にいまーす」

ソファの背もたれの向こうから、間の抜けた声が聞こえた。しょうもなさ過ぎて、話しかける気が失せてしまう。

父が、フリスビーを拾ってきた犬みたいに、何か言って欲しげに目を輝かせてこちらを見てきて、「元気そうでよかったよ」とひとこと言うのが精いっぱいだった。

けれどよく見てみると、以前より本当に元気、というか若く見える。肌に艶があり、頬が落ち窪んでもいない。

母の方がずっと老け込んだみたいだ。父の方が年は上だし、こんな風に感じたことは今までになかった。

少し会わない間に、何かあったのだろうか。

なんとなく不安を覚えて、窓の外へ視線を移すと、雪がちらついていた。

 

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