第5話「惑星の住人」
「アルテミス1、始めてくれ」
「はい、艦長」
モニターが三分割されて前後と上からの映像が出た。そこには人型の生命体が映っている。レンヌは映像を見て驚愕した。
「驚いた! ストラスブール星人とそっくりだな」
モニターにいる生命体はレンヌと同じ金髪碧眼だった。
色白で、長い髪は肩まで伸びている。体格が良いので男性だろうと推測された。服装は植物性の布地のようだ。化学繊維特有の光沢が無かった。
続いてモニターに映ったのは女性体型の小柄な生命体だ。しかし、その容姿を見たレンヌは、驚きのあまり立ち上がろうとしてバランスを崩し椅子から落ちそうになった。
「何だアレは? アルテミス1、あれも人類なのか?」
椅子にしがみついた格好でレンヌは叫んだ。
手足や顔は普通の人と同じだが、頭の上に茶色の毛が生えた三角の耳が二つ立っていた。そして、本来あるべき位置に耳が無かった。後ろからの映像を見るとふさふさした長い尻尾が見えた。その特徴はストラスブール星に生息する狐に似ていた。
「艦長。この都市の人類は二種類あるようです。ストラスブール星人と同じ容姿を持つ人類と動物と融合したような人類です」
「じゃあ、いま写ったのは狐と融合したような人類なのか?」
「そうです、艦長。他にもストラスブール星に生息する犬や猫などの動物と融合したような人類もいます」
「アルテミス1、小型ドローンをステルス状態にして、あの街の情報を収集しろ」
「艦長。静止衛星の設置が終わっていないので、ネットワークの構築が不充分です。24時間、お待ちください」
「そうか、ネットワークが構築されてないとドローンの操作が出来ないな。驚いたので焦り過ぎたようだ。アルテミス1、静止衛星を設置してネットワークの構築を確認後に都市の調査を命じる」
「艦長、了解しました。集音マイクでの言語サンプルの収集も許可してください」
「許可する。翻訳に使用する他にも、この星の知識を得るための情報も収集しろ」
「了解しました、艦長。情報分析後にデータベースに保存し、報告します」
24時間後。
アルテミス1はレンヌの命令に従い、自走式探査車両一台と調査用小型ドローン五機を小型揚陸艦に積み込み惑星へ降下させた。
都市から遠く離れた川の側に着陸して、近くの森の中に探査車両を隠した。それから小型ドローン四機を展開して、都市の中に潜入させて調査を開始した。
探査車両は、その場で大気成分や土壌の調査を始めた。小型ドローン一機はステルス状態で河川の水質調査と生物の確認に向かった。
調査機器から次々とデータが送られてきた。
「艦長。地上の探査車両より惑星の大気成分のデータが送られてきました。その結果、大気成分の構成は本星と類似、有害なガスや病原菌は発見されませんでした。ただ、一種類だけ未知の成分が検出されましたが、有害成分に該当する物ではありませんでした」
「そうか! 」
レンヌは喜んだ。データを分析した限りでは、地上に降り立つことに全然問題は無い。だから、重くて動きにくい宇宙服とヘルメットを着なくてもいいのだ。
「艦長、河川の水質調査の結果ですが、有毒な成分は発見されませんでした。細菌は本星の基準値以下なので飲用可能です。あと、水中に水棲生物を確認しています」
「ほう! 魚がいるのか。サンプルが欲しいな」
「艦長。魚もいますが、未知の生物も生存しているようです」
「未知の生物? 捕獲できるのか?」
「魚類よりも大型なので小型ドローンでは無理です。捕獲用ドローンを製造しますか?」
「そうだな。サンプルはできるだけ集めたい。必要なものを製造してくれ」
「それでは、捕獲用の大型ドローン製造と運搬用に転送装置付きの輸送艦を建造します」
「許可する。それから艦内にサンプル生物用のスペースを建造してくれ。必要に応じた拡大も併せて許可する」
「艦長、資材が不足していますが修復を後回しにして建造しますか?」
「いや、それはマズイ。スペースの建造は中止して修復を優先してくれ」
レンヌは思った。
『鉱物資源の調査を最優先するべきではないか?』
「アルテミス1。静止衛星から地中の鉱物資源を探査できるか?」
「可能です」
「それなら、静止衛星と鉱物探査用の機器を使って鉱物資源の調査を開始してくれ」
「艦長、了解しました」
アルテミス1が映像の続きをほうこくしてくる。
「艦長、次は探査車両が森の中を調査した時の映像です」
モニターにいきなり動物が映った。白い毛皮を持つ兎と酷似した生物だった。たった一つ違ったのは、頭の上に一本の捻れた角があること。
「角が有るのか。驚いたな! しかし、それを除けば姿形は本星の兎にそっくりだ。やはり発表された学術論文は正しいようだ」
レンヌは喜びのあまり、居ても立っても居られない気持ちになった。なので、思わず強い口調で言った。
「アルテミス1! すぐに、俺も降りるぞ」
「艦長、却下します」
意気揚々とした気持ちが撃沈され、レンヌは項垂れたままの姿勢で聞いた。
「ええぇ! アルテミス1、理由を明確にしろ」
「安全面の調査がまだ終了しておらず、惑星の生物に対する危険性が未知数です。艦長の安全のために調査終了までお待ちください」
「アルテミス1、その心配は必要ない。移動は探査車両を使用するし、車外でも『アストロン』のシールドを使えば安全は守られる」
「艦長。アルテミス1は条件付きで承認します」
「条件とは?」
本来なら、AIの許可等は必要無いが、疑似人格を持つアルテミス1は心配して言ってくれているのだ。それをレンヌも理解しているから無下には扱えなかった。
「探査車両は武器を実装していません。また、アストロンの武器では大型生物に対応できません。なので、武装大型ドローンに護衛させてください」
「了解、アルテミス1。武装大型ドローン二機とアストロン四機、それから例の簡易風呂と付属機器を揚陸艦に積んでくれ」
「了解しました。艦底にある揚陸艦格納庫で乗艦してください」
レンヌは高まる気持ちを抑えながら格納庫に急いだ。
レンヌは格納庫に向かう途中で、装備しているインカムを使いアルテミス1に質問した。
「アルテミス1、大型ドローンの武装内容を教えてくれ」
「はい、艦長。主砲は収束型光量子レーザーが前面に一門、副砲は、バッテリーパック式の対空対物レーザーが側面に二門、バッテリー予備パック六個、収納式小型対空ミサイル二十発、機体下部に装着した中型ミサイル二発です。尚、光学迷彩式のステルス機能を実装しています」
「わかった」
小型揚陸艦の降下中に惑星の地表を眺めていたレンヌは高揚感が止まらなかった。辺境の地と言われる故郷によく似た景色を持つこの場所を見て、何か懐かしいものを感じていた。それは一種のノスタルジックであり、未知の宙域に来たレンヌにとって『もう二度と故郷に帰れない』という不安の裏返しの感情だった。
感情に浸っているレンヌの不意を突くように、アルテミス1の声が聞こえた。
「艦長、まもなく地上に着陸します」
「おう! 了解だ」
探査車を隠した森の側に揚陸艦は着陸した。ただし、戦艦アルテミスの探査レーダーの修理が不充分なのである程度の危険性が残っている。
アストロン四機を先に揚陸艦から降ろして周囲の確認を済ませる。そのあと、レンヌがゆっくりと地上に降りてきた。アストロン1~4はアルテミス1とリンクしている。
「アストロン1から4。シールドを展開」
レンヌの命令で四機のアストロンが連携してシールドを張る。揚陸艦の後部にある浮上口が上に開いた。大型ドローン二機が浮かび上がり、空中で停止姿勢を保っている。
レンヌの装備はストラスブール星軍の正規兵が採用しているコンバットスーツだ。防刃防弾防撃の三つの機能を併せ持ち高い防御力を誇る。通常はヘルメットとセットで使用する。
だけど、レンヌは軍人ではないから重いヘルメットを使わずに、透過式映像投射機能付きのゴーグルを装着している。アストロンがシールドを展開しているので頭部の防御は必要ない。腰にはパラライザーと熱線ブラスター、それからレーザーサーベルを装備している。
惑星を探索するのに探査車から降りる必要はないのだが、レンヌはどうしても地面に立ちたかった。
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