第4話「惑星探査」
生存の確率が高くなったレンヌは希望を胸に抱きアルテミス1に質問した。
「アルテミス1。現在の艦の速度で、生物が生息する可能性がある星に到達するまでどのくらいかかる?」
「一番近い惑星まで、現在の速度であと十日、240時間を要します」
「十日後から調査を始めて、生存環境が適した星を発見するのにどのくらい必要か?」
「それは、艦長の運次第でしょうが、可能性がある星は推測できています。恒星を中心に公転する惑星の、内側から数えて四番目の星までです」
「根拠は有るのか?」
「有ります。四番目の星までが岩石惑星で五番目以降は巨大ガス惑星です。恒星からの距離を考慮すれば、五番目以降の惑星の平均気温はマイナス100℃~200℃だと推測できます」
「なるほど、岩石惑星の内で最も気温が適したものが生存可能な星ということか」
「可能性が一番高いのは三番目の惑星です。表面が青いので水が存在していると推測できます」
「ああ! ストラスブール本星みたいに、宇宙から見ると青く見えるってやつか」
「そうです、艦長。最初に宇宙に出た搭乗員が言った『ストラスブールは青かった』との名言は有名です。尚、現在地からの三番目の惑星への到着予定は十九日後です」
「アルテミス1、三番目の惑星という言い方は不便なので、今後は『第三惑星』との仮名称で呼ぶことにする」
「仮名称『第三惑星』を設定しました」
「アルテミス1、十九日後だと飲料水がギリギリじゃないか?」
「艦長、同意します。到着前日に無くなります。なので節約が必要です」
レンヌは考えた。
『現在の速度で進んで到着の前日に水が無くなるようなら、何か不慮の事態が起きたら水無しで過ごす事になる。これは、マズイ状況ではないか?』
「アルテミス1、補助エンジンの燃料を限界ぎりぎりまで使って推進しろ。それから、揚陸艦と調査機器の準備をしてくれ」
「了解しました、艦長。補助エンジンを使えば予定日数を二日短縮できます。それから艦長、許可をいただきたい事があります」
「何だ? アルテミス1」
「惑星探査と通信網構築の為に静止衛星の製造と設置許可、及び『アストロン』の製造許可をください」
「アストロン?! また、懐かしい名前を出してきたな」
「艦長が開発されてから、まだ三年しか経っていませんよ?」
【アストロン】は、レンヌが22歳の時に開発した反重力浮遊式護衛ロボットだ。直径50センチほどの球形をしている。高額な上に所持には国の許可が必要なので、王族や王国の重職につく大貴族しか持っていない。
光学迷彩式のステルス機能を保有しており、通常は姿を消して要人のガードをしている。四機がワンセットになっており、電磁界エネルギーを応用した三角錐のシールドを展開する。シールドは狙撃等の物理攻撃を防ぐのが主目的だ。銃弾やレーザーなどを無効化できる。
この『アストロン』の開発が認められてレンヌは准尉に昇進して主任研究員を拝命したという経緯があった。
「アストロンを惑星探査の時に使うつもりか? 国の許可が必要だぞ」
「緊急時特別措置法により戦艦艦長の使用は許可を必要としません。また、第三惑星は未知の部分が多いために想定外の危険もあると推測されます」
「分かった。全ての製造と設置を許可する」
「ありがとうございます、艦長」
アルテミス1は嬉しそうな声で謝意を述べた。
十七日後、戦艦アルテミスは太陽から三番目の惑星に到着した。今は惑星の軌道上を周回している状態だ。
飲料水は残っていたが、ほんの僅かだった。
「レンヌ艦長。第三惑星の周回起動上に到達しました」
「おお! 着いたか。なんとか間に合ったな」
「艦長。軌道上から第三惑星を写した高感度カメラの映像をご覧になりますか?」
「見せてくれ」
艦長室に設置された大型モニターに映像が現れた。
軌道上から撮影された惑星の画像を見たレンヌは思わず声を漏らした。
「美しい! こんなに美しいとは思わなかった。本当に青いんだな」
「艦長、同意します。青い部分が海で、星の表面積の70%を占めています」
「あの白いのは雲か?」
「そうです、艦長。緑色は植物が多い地域で、茶色もしくは黒色は砂漠か山脈です」
「アルテミス1。緑色の地域を重点的に映してくれ。海と雲が存在しているのなら、河川が必ず在るはすだ」
「了解しました、艦長。河川の探索を最優先します」
『飲料水の確保も大事だが、風呂に入りたい』とレンヌは思っていた。
飲用の分しか水がなかったので、シャワーを浴びる事も風呂に入る事もできなかった。体は医療ポッドの清浄機能で清潔にできるが、それでは充足感がないのだ。
「アルテミス1、工作室で簡易風呂と湯沸し器、それと汚水処理機器を製造しておいてくれ。地上で風呂に入りたい」
「艦長、了解しました。入浴剤もお付けします」
レンヌは親指を立てて、ニンマリと笑った。
椅子に座っているレンヌにアルテミス1が報告する。
「艦長、超望遠高感度カメラで緑色の地域を撮影したリアルタイムの画像です」
艦長室の大型モニターに映像が映し出された。 上空から撮影した映像はさっきよりも拡大されている。山脈から流れ出る河川が見えた。水の色は青い。山脈の麓に広がる緑の森と茶色の大地の間を蛇行するように流れていた。
「おお! 川が見つかったか。俺の田舎の景色に似ているな」
山頂から見た故郷の景色を思い出しながらレンヌは呟いた。
「岩石惑星に大量の水が存在すると似たような進化をする、という学説が発表されています」
「なるほど」とレンヌは頷いた。
ストラスブール本星を中心に百を超える植民惑星を持っていたストラスブール王国は数十の銀河系に進出していた。当然ながら星の研究も充実している。
カメラの映像は、大きな川に沿って下流へと移動していく。すると、川の近くに壁で囲まれた多くの家屋が見えた。
「艦長、川の側に建築物を確認しました」
アルテミス1の報告にレンヌは喜んだ。
「知的生命体の可能性は考えたけど、建築物が見つかるとは思ってなかった。アルテミス1、建築物をモニターに出せるか?」
「超望遠好感度カメラの画像倍率を上げて、モニターに建築物の映像を出します」
モニターに映し出されたのは、壁に囲まれた数多くの家屋だった。煉瓦作りの三階建てと木造の二階建てしかなかったが、明らかに人工建築物だった。
「高層建築物は見当たらないが、区画整理された通りがあるのでちゃんとした街を形成しているようだな」
「本星の下町に見られる低層家屋だけですが、街として機能しているように推測します」
「生命体を確認できるか?」
大きな通りを行き交う生命体の姿がモニターに映し出された。それは、人の姿をした生命体だった。だが、モニターに映る人の姿はあまりにも小さかった。レンヌはアルテミス1に命じた。
「生命体の画像を拡大。容姿がわかるサンプル映像を収集しろ」
アルテミス1は超望遠高感度カメラを使って、映像による生命体のサンプル収集を始めた。
レンヌはその間に惑星探査の準備をする。
武器庫が破壊された為に重火器類は失くしたが、無事だった警備室にコンバットスーツやパラライザー(麻痺銃)等の武器や予備のエネルギーパックが残されていた。
レンヌはアルテミス1に命じて、それらを艦底に移送させた。
レンヌが装備を着け終わった頃にアルテミス1から、資料ができたと連絡がきた。
レンヌは艦長室に戻ってモニターの前に座った。
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